農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)

主要成果

世界で初めての微生物を用いた温室効果ガス・N2O の削減法を野外で実証

[要約]

温室効果ガス・N2O を除去する能力の高いダイズ根粒菌をダイズに接種することにより、ダイズ収穫後に根粒が土に帰る際に圃場から発生する N2O を47%削減することができました。 この結果は微生物を用いた世界初の N2O 削減技術として注目されています。

[背景と目的]

N2O (一酸化二窒素)は二酸化炭素の約300倍の温室効果があり、オゾン層の破壊の原因物質でもあります。N2O の最大の人為的発生源は農耕地であるため、その削減技術の開発は重要な課題となっています。現在までに、硝化抑制剤の使用や窒素施肥の削減などが提案されていますが、微生物を用いた方法はありませんでした。

[成果の内容]

東北大学の研究により、根粒菌の中には N2O を窒素ガス( N2 )に還元する酵素(N2O 還元酵素)の遺伝子(nosZ)を持つものと持たないものとがあることが明らかになっていました。また、nosZ を持つ根粒菌によって形成される根粒が N2O を除去することが報告されていました(図1)。しかしながら、実際の圃場における N2O 削減効果は検証されていませんでした。このため、東北大で開発した N2O 還元酵素活性を強化したダイズ根粒菌: nosZ 強化株による 圃場スケールでの N2O 削減効果を実証しました。
最初に、nosZ 強化株の N2O 削減能力の評価と実証のために、目的の根粒菌が形成した根粒かどうかを確認するための PCR による検定法を開発し、さらに圃場での試験を行うための根粒菌の培養法と接種法を確立しました。これらを用いて、まず、自動的に N2O の発生量を計測できるライシメーター実験施設で接種試験を行ったところ、nosZ 活性を欠いた土着ダイズ根粒菌が大多数を占める黒ボク試験区では、nosZ 強化株の接種により、収穫後に根粒が分解し土に帰る際に発生する N2O を43%削減できることを確認しました。そこで、実際に黒ボク土圃場で nosZ 強化株を用いた試験を実施した結果、収穫後の圃場からの N2O の発生を47%削減できることを実証しました(図2、図3)。この成果は、世界で初めて微生物を用いた N2O の削減が圃場規模で可能であることを実証したものであり、将来の実用化が期待されます。

本研究は東北大学との共同研究であり、生物系特定産業技術研究支援センター新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業「機能微生物ゲノミクスによる農耕地からの亜酸化窒素ガス低減化」による成果です。

リサーチプロジェクト名: 温暖化緩和策リサーチプロジェクト

研究担当者:物質循環研究領域 秋山博子、内田義崇(現:北海道大学)、 生物生態機能研究領域 早津雅仁、星野(高田)裕子、多胡香奈子、下村有美、王勇、森本晶(現:(独)農業・食品産業技術総合研究機構 北海道農業研究センター)、南澤究(東北大学)、板倉学(東北大学)

発表論文等: 1) Itakura et al., Nature Climate Change, 3:208-212 (2013)

図1 ダイズ根粒菌による根粒根圏からのN2O発生

図2 ダイズ根粒菌の接種風景/図3 ダイズ根粒菌接種による収穫後のN2O発生量の削減

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