農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)

主要成果

水田からのメタン発生量を少ない頻度で精度良く
推定するための測定スケジュール

[要約]

潅漑水田からのメタン発生量を±10%以内の誤差で手動チャンバー法によって測定するための観測スケジュールを立案しました。湛水期間中は週1回午前10時頃、落水後1週間は日中1回の測定が必要十分な頻度です。

[背景と目的]

水田は強力な温室効果ガスであるメタンの主要な発生源の一つです。メタン発生速度の測定には、手動で設置するチャンバー(イネを覆う箱)を用いる方法が一般的です(図1)。高い頻度で測れば積算発生量の推定精度は向上しますが、労力と設置によるイネへの悪影響の観点から限界があります。本研究では、単位時間当たりのメタン発生速度の日変化を過去の連続測定テータの解析から確認し、手動チャンバー法で測定する際の最適な時間帯と頻度を示しました。

[成果の内容]

日本の代表的な水田土壌である灰色低地土の水田2地点(つくば、龍ヶ崎)において、過去に自動チャンバー法で2時間おきに連続測定されたメタン発生速度のデータを再解析しました。両水田では、水管理と稲わら管理の方法がそれぞれ異なります。

メタン発生速度の日変化は水稲の出穂期以降に顕著に見られ、日平均値は午前8〜12時と午後6〜10時の時間帯に得られました(図2)。湛水期間中は、午前10〜12時の時間帯に週1回測ることで、連続測定に対して93〜106%の割合で積算発生量を推定できました。一方、落水期間中(中干しや最終落水)は、落水直後の数日間に大きな発生(湛水土壌中に溜まっていたメタンの放出)が起き、その後発生は止むために、粗い頻度の測定では積算発生量を精度良く推定できませんでした。

したがって、湛水期間中は週1回午前10時頃に、落水後1週間は、毎日、日中(午前10〜午後4時)に1回ずつそれぞれ測定することで、作付期間中の積算メタン発生量を±10%以内の誤差で推定できることが明らかになりました(図3)。提案する測定頻度と時間帯(地方平均時として)は、常時湛水や中干しなどの短期の落水管理を行う潅漑水田であれば、日本を含めた温帯アジア地域に適応可能です。本研究の成果は、測定法の標準化および国単位での温室効果ガス発生量の正確な見積もりに大きく貢献します。

本研究は 「農業分野の温室効果ガスに関するグローバル・リサーチ・アライアンス」 水田管理研究グループのメンバーの協力によって得られた成果です。

リサーチプロジェクト名:温暖化緩和策リサーチプロジェクト

研究担当者:物質循環研究領域 南川和則、常田岳志、 研究コーディネータ八木一行、 ReinerWassmann (国際稲研究所 (IRRI))、Bjoern Ole Sander (同左)

発表論文等:1) Minamikawa et al., Greenhouse Gas Measure. Manage., 2: 118-128 (2012)

図1 手動チャンバー法によるメタン発生速度の測定の様子

図2 出穂期以降のメタン発生速度の日変化

図3 提案する測定頻度と時間帯による積算メタン発生量の推定精度

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