農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成24年度 (第29集)

主要成果

コメのカドミウム汚染をなくす遺伝子を発見

[要約]

土壌中のカドミウムをほとんど吸収しなくなったコシヒカリの変異体(低カドミウムコシヒカリ変異体)は、カドミウムやマンガンの輸送に関わるトランスポーター遺伝子である OsNRAMP5 のDNA配列に変異があることがわかりました。

[背景と目的]

我々はコシヒカリの種子にイオンビーム照射することで、土壌に含まれるカドミウムをほとんど吸収しなくなった3つの突然変異体(lcd-kmt1, lcd-kmt2, lcd-kmt3)を作ることに成功しました(平成24年度の主要研究成果)。本研究では、これら変異体がカドミウムを吸収しなくなった原因となる遺伝子の変異について特定しました。

[成果の内容]

マップベースクローニング法(品種間での遺伝子多型の違いから、DNAマーカーを使って原因遺伝子を絞り込む方法)等の遺伝解析手法を駆使した結果、低カドミウムコシヒカリ変異体として選抜した3個体ともすべて、OsNRAMP5 遺伝子の塩基配列に変異があることがわかりました。OsNRAMP5 は、カドミウムやマンガンの輸送に関わるトランスポーター遺伝子であることが報告されています(Ishimaru et al. Sci Rep 2012; Sasaki et al. Plant Cell 2012)。lcd-kmt1 の場合、OsNRAMP5 の第10エクソンの末端領域に mPingA1 と呼ばれる 433 bp からなるトランスポゾン(転移因子)が挿入されていました(図1a)。lcd-kmt2 では、OsNRAMP5 の第9エクソンに 1 bp の欠損がありました(図1a)。また、lcd-kmt3 は OsNRAMP5 を含む約 277 kbp の大きな欠損が認められました(図1b)。

OsNRAMP5 の変異により、カドミウムトランスポーターとしての機能が失われることによって、根におけるカドミウム吸収が強く抑制され、結果的に地上部のカドミウム濃度が著しく低くなることが明らかとなりました(図2)。

この変異遺伝子を他のイネ品種に導入することにより、新たな低カドミウム品種の開発が可能です。

本研究は 生物系特定産業技術研究支援センターイノベーション創出基礎的研究推進事業 「食の安全を目指した作物のカドミウム低減の分子機構解明」 による成果です。

リサーチプロジェクト名:有害化学物質リスク管理リサーチプロジェクト

研究担当者:土壌環境研究領域 石川覚、倉俣正人、安部匡、井倉将人、荒尾知人(現:農林水産技術会議事務局)、中西啓仁(東京大学)、西澤直子(石川県立大学、東京大学)

発表論文等:1) Ishikawa et al., PNAS, 109:19166-19171 (2012)
2) 石川ら、PCT/JP2012/77300(カドミウム吸収制御遺伝子、タンパク質及びカドミウム吸収抑制イネ) (2012)

図1 原因遺伝子(OsNRAMP5)の変異挿入概要

図2 低カドミウムコシヒカリ変異体のカドミウム吸収抑制メカニズム

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