農業環境技術研究所 > 刊行物 > 研究成果情報 > 平成26年度 (第31集)

NIAES 施策推進上の活用が期待される成果(主要研究成果)

独立行政法人 農業環境技術研究所

植物の侵入病害の根絶を確認するための統計分析法

ポイント

概要

研究(開発)の社会的背景

植物防疫において、植物の病気や害虫の侵入が国内で確認され、それがまん延して農作物等に対して甚大な損害を与える恐れがある場合、農林水産省はその病気や害虫の根絶に向けて「緊急防除(*1)」を行います。植物の病気の場合、緊急防除実施中は、感染した植物を除去するとともに病気の拡散を防止するために、病気に感染しうる植物(宿主植物)の移動が禁止されます。緊急防除によって病気の根絶に成功した場合には、宿主植物の移動を再開できますが、再開後に病気の拡散を招かないために、根絶が正しく行われたかどうかを再開前にきちんと確認しておく必要があります。

しかし、侵入が確認された場所周辺の宿主植物の感染状況を全て確認することは容易ではありません。本研究では、宿主植物の一部を適時に調査することで、このような侵入病害の根絶を統計的に所定の信頼度をもって確認するための手法を構築しました。

研究の内容・意義

活用実績・今後の予定

鹿児島県喜界島ではカンキツグリーニング病(*4) の発生が 2003 年に初めて確認され、その後カンキツ類への被害状況を確認して、2007 年に緊急防除が開始されました。同病の緊急防除を完了するにあたって、所定の信頼度をもって根絶確認を行うための手法が必要とされていました。

カンキツグリーニング病の場合には、文献値からの再計算等によって、潜伏期間 (d) は2年(Gottwald, 2010)、病気の1年あたりの増加倍率 (R 0) は3倍 (Gottwaldら, 1989) と推定しました (図2)。これらを上記計算式に代入すれば、病気の根絶を 95 %の信頼度で確認するための調査割合は、調査までの時間とともに 図3 に示されるような形で変化することがわかります。

喜界島では最後に病気が見つかったのが緊急防除を開始した 2007 年であり、その4年後の 2011 年に門司植物防疫所により根絶確認調査が実施されました。開発したサンプリング理論による計算結果 (図3) を使って、B 区域内で必要な調査本数を判断し、サンプリング調査が行われました。この調査において感染樹が見つからなかったことから、同年度末(2012年3月)に喜界島において根絶が宣言されました。

問い合わせ先など

研究担当者:(独)農業環境技術研究所 生物多様性研究領域

主任研究員   山村 光司
TEL 029-838-8253

用語の解説

*1 緊急防除: 植物の病害虫が新たに国内に侵入・まん延して、農作物に大きな被害を与えるまたはその輸出が阻害されるおそれがある場合、一部地域に封じ込め根絶するため、緊急的に宿主植物の作付けの制限・禁止、譲渡・移動の制限、消毒、除去、廃棄等を行う防除措置のこと。

*2 リスク: 「ある悪い出来事が発生する確率」のことをリスクとよぶ。病気の根絶確認におけるリスク管理では、病気に感染した植物を検出できないことが「悪い出来事」である。

*3 信頼度( 1-β ): 抜き取り検査等の場合に用いられている考え方。ここでは、病気の根絶に対する信頼度で、95 %としている。β はいわゆる消費者危険率(詳細は論文を参照のこと)。

*4 カンキツグリーニング病: 世界中でもっとも深刻なカンキツ類の病気。この病害は細菌 Candidatus Liberibacter asiaticus 等によって引き起こされ、ミカンキジラミ Diaphorina citri Kuwayamaによって媒介される。

その他

論文:

図1 緊急防除の空間構造のシェマ

図2 カンキツグリーニング病における増加倍率R0の推定

図3 カンキツグリーニング病の根絶を宣言するのに必要な調査樹率

目次へ戻る   このページのPDF版へ