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平成26年度主要成果

ニホンアマガエル幼生の水稲用農薬に対する感受性

[要約]

水田で成長するニホンアマガエル幼生に対する水稲用農薬の影響について、各農薬有効成分に対する幼生の感受性と田面水中濃度の消長から評価した結果、定められた農薬施用量では幼生の個体数に大きな影響を与える可能性は低いものと考えられました。

[背景と目的]

ニホンアマガエル(Hyla japonica)は日本全国に生息し、水田やその周辺域で最も普通に見られるカエルです。本種は、害虫の天敵生物として、またヘビや鳥などの高次捕食者の餌として重要な生物です。水田で農薬が使用される5〜7月に産卵して幼生(オタマジャクシ)の時期を過ごすため、暴露される可能性の高い水稲用農薬製剤から代表的なものを選び、幼生の感受性を調べました。製剤を用いた試験において比較的高い感受性を示したものについて、各農薬有効成分の幼生に対する感受性と田面水中濃度の消長から、ニホンアマガエル幼生に対する水稲用農薬の影響を評価しました。

[成果の内容]

5月から7月にかけて用いられる水稲用農薬(殺虫殺菌剤、殺虫剤、除草剤)11 製剤に対するニホンアマガエル(Hyla japonica)幼生(オタマジャクシ)の感受性を室内試験により検定したところ、殺虫殺菌剤2剤、殺虫剤2剤および除草剤4剤の幼生に対する 96 時間 LC50 (半数致死濃度)値は 100 mg/L 以上と高かったのに対し、除草剤3剤(E・F・I)は10〜30mg/Lと比較的低濃度で影響が認められました(表1)。これら除草剤3製剤に含まれる有効成分について幼生の感受性を検定したところ、インダノファン、エスプロカルブ、プレチラクロール、ジメタメトリンの寄与が考えられました(LC50: 0.5〜3 mg/L)(表2)。そこで、各有効成分の含有量と LC50 値から、複数の有効成分からなる混合物(製剤)の LC50 値を推定する計算式を用いて、どの有効成分が幼生の感受性に寄与しているかを検討したところ、影響が大きかった3製剤に対する感受性は、除草剤EおよびFではインダノファン、除草剤Iではエスプロカルブおよびプレチラクロールによってほぼ説明できました。これらの3製剤について、数理モデルによる有効成分の田面水中濃度の消長を推定したところ、いずれの成分でも推定最高濃度が各々の LC50 値を下回り、製剤ごとに定められている施用量ではニホンアマガエル幼生の個体数に重篤な影響を与える可能性は低いと考えられます(図1)。

農業が水田およびその周辺の水辺環境の生物多様性に及ぼす影響を評価する際には、農薬以外にも、水管理、圃場整備、耕作放棄などの要因を総合的に解析する必要があります。本研究の成果は、水田に施用される農薬のニホンアマガエル幼生に対する直接的な影響を室内試験により調査したものであり、水田を生息域とする生物に対する農業活動の影響を評価する際に役立つものと考えられます。

リサーチプロジェクト名: 化学物質環境動態・影響評価リサーチプロジェクト

研究担当者: 有機化学物質研究領域 大津和久、農業環境インベントリーセンター 稲生圭哉

発表論文等:1) 大津和久、稲生圭哉、大谷卓、環境毒性学会誌、16(2):69-78 (2013)

表1 各種水稲用農薬製剤に対するニホンアマガエル幼生の半数致死濃度(LC50)

表2 製剤E・F・Iの各有効成分に対するニホンアマガエル幼生の半数致死濃度(LC50)

図1 数理モデルPADDYによる3種除草剤製剤有効成分の田面水中濃度の推定

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