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平成27年度主要成果
大気 CO2濃度が高い条件では、白未熟粒が多発し、品質の指標である整粒率が大幅に低下しました。その程度は高温年で大きく、将来の高CO2・高温環境では品質の低下が懸念されます。ただし、高温耐性品種では、品質の低下が小さいことがわかりました。
今後予測される大気CO2濃度の上昇は、光合成を高めて収量を増加させますが、高CO2および温暖化条件がコメの収量・品質に及ぼす影響は、屋外条件で十分に検証されていません。そこで、開放系大気CO2増加(FACE)と水温上昇の組み合わせが、コシヒカリの収量と品質に及ぼす影響を、屋外圃場で3か年調査しました。また、近年開発された高温耐性品種が、高CO2環境でも高い品質を示すかについても検証しました。
2010~2012年に茨城県つくばみらい市において、大気CO2濃度を現在よりも 200 ppm 高めた屋外水田でイネを栽培する FACE (Free-Air CO2 Enrichment) 実験を実施しました(図1左)。また、CO2区内の一画には、水温を2℃高める加温区も設け(図1右)、品種コシヒカリの収量および品質に及ぼす影響を調査しました。その結果、高CO2処理は、現在のCO2濃度区に比べて平均で14%収量を増加させましたが、品質の重要な指標である整粒率(未熟米、割米などを除いた、整った米粒の割合)を、11ポイントも低下させることがわかりました(表1)。加温処理は、整粒率を3ポイント程度低下させましたが、収量に対する影響は認められませんでした。高温・高CO2条件による整粒率の低下は、玄米の基部が白く濁る基部未熟粒の多発によるもので、その発生程度は、玄米タンパク質含有率の低下および登熟期間の気温の上昇によって大きくなることがわかりました(図2)。2012年には、近年開発された高気温で優れた品質を示す高温耐性の7品種と対照5品種に対して高CO2の影響を調査しました。その結果、基部未熟粒率はいずれの品種でも高CO2処理により増加しましたが、その程度は高温耐性品種で小さく、現在の高温耐性育種は、高CO2による品質低下にもある程度有効であることがわかりました(図3)。これらの知見は、気候変動が収量・品質に及ぼす影響の予測および適応品種の育成に役立ちます。
本研究は農林水産省プロジェクト「農林水産分野における地球温暖化対策のための緩和および適応技術の開発」および文部科学省科学研究費補助金「植物生態学・分子生理学コンソーシアムによる陸上植物の高CO2応答の包括的解明」による成果です。
リサーチプロジェクト名:作物応答影響予測リサーチプロジェクト
研究担当者:大気環境研究領域 長谷川利拡、臼井靖浩(現農研機構)、酒井英光、物質循環研究領域 常田岳志、中村浩史(太陽計器(株))、中川博視(農研機構)
発表論文等:1) Usui Y, et al., Rice, 7:6 (2014) 2) Usui Y, et al., Global Change Biology, doi:10.1111/gcb.13128 (2015)