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平成27年度主要成果

放棄畑でのササやクズの繁茂状態は長期間続き、
隣接畑へと侵入・拡大していく

[要約]

関東平野においてアズマネザサとクズが優占する耕作放棄畑では樹木の定着が進まず、少なくとも数十年間は繁茂状態が持続します。これらは隣接する畑に侵入・拡大することで、営農の妨げになるため、耕作放棄畑における繁茂を未然に防ぐ、あるいは解消する管理が重要です。

[背景と目的]

現在、日本全体で農耕地の約10%が耕作放棄されていますが、放棄の長期化が営農や地域の生物相に与える影響の評価は十分に進んでいません。そこで茨城県南部の畑を対象に、耕作放棄後の植生と樹木が定着する過程を評価しました。

[成果の内容]

茨城県南部の森林に隣接した耕作放棄畑11箇所において、繁茂している植物と樹木の実生が定着する状況を観察しました。その結果、アズマネザサやクズの繁茂した放棄畑では、セイタカアワダチソウやススキの繁茂した圃場よりも地表が暗く、樹木が定着しにくいことが分かりました(図1)。アズマネザサやクズは放棄後4〜5年で繁茂し、40年以上その状態が持続する畑もありました(発表論文1)。この結果を受け、アズマネザサとクズの両方が繁茂した放棄畑において植生の刈り取りの有無が植栽した樹木の定着に及ぼす影響を一年間観察した結果、非刈り取り区では導入した在来樹種の定着がほとんど進まないことが明らかとなりました(表1)。この結果は、アズマネザサやクズの繁茂した群落内の暗さや野ネズミによる食害が樹木の定着と生長を抑制したものと考えられます。

耕作放棄畑のような人の手が加わらなくなった場所は、一般に草原から、陽樹で構成される明るい林、陰樹で構成される暗い林へと変化(遷移)していくと考えられています。しかし、本結果からは、アズマネザサやクズの優占が長期化して、落葉広葉樹への遷移が進まない例があることが示されました。関東から東北にかけて分布するアズマネザサや暖地を中心に日本各地に分布するクズは、地下茎やつるを伸ばして隣接する畑に侵入・拡大し、防除コスト増加の原因となっています。耕作放棄畑に隣接する畑において営農の妨げとなるため、アズマネザサやクズの優占状態の未然防止や解消を図るための対策が重要となります。

リサーチプロジェクト名:生物多様性評価リサーチプロジェクト

研究担当者:生物多様性研究領域 徳岡良則、生態系計測研究領域 大東健太郎、中越信和(広島大学)

発表論文等:1) Tokuoka et al., Plant Ecol 212:923–944 (2011)
2) Tokuoka et al., J For Res 26:581–588 (2015)

図1 放棄畑植生4タイプの群落内の明るさと実生数の関係: 各植物が繁茂する群落内から上に向けて撮影した全天写真画像を解析して、空が見えている部分の面積率(図中の数値)を算出したものを群落内の明るさとしました。群落内が明るいほど樹木実生の本数が増える傾向にありました。

表1 アズマネザサ・クズ繁茂圃場における樹木の播種・植栽試験の結果: 明るい環境を好むアカマツや落葉広葉樹のムクノキ、エノキ、発達した森林に見られるシラカシ、スダジイなどを導入対象樹種としました。ササ、クズの刈り取りと在来樹種の導入を同時に行うと実生の生残率が増加しました。一方、非刈り取り区では導入した樹種の生残率は極めて低く、ほとんど定着しませんでした。この結果はササやクズによる遮光と野ねずみによる食害が主に影響したと考えられます。

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