プレスリリース
平成20年3月10日
独立行政法人 農業環境技術研究所

農環研が生分解性プラスチックを強力に分解する微生物をイネの葉の表面から発見
―プラスチックごみの減量と省力化に期待―

独立行政法人農業環境技術研究所 (農環研) は、イネの葉の表面などに生息する酵母菌が生分解性プラスチック (生プラ) を効率よく分解することを明らかにしました。この酵母は、植物由来のプラスチックであるポリ乳酸も分解します。

大きな環境問題となっているプラスチックごみ問題の解決のために、生プラの導入が進められています。しかし、生プラの分解制御は難しく、強力な分解菌を利用した分解促進技術が期待されていました。そこで、農環研では植物の葉の表面が生プラの構造と似ていることに着目し、イネの葉の表面を探索したところ、分解能力の高い酵母菌が生息していることを発見しました。これらの酵母菌は、農業用マルチフィルム等に使われるポリブチレンサクシネート(PBS)やポリカプロラクトン(PCL)等の生プラを効率よく分解するとともに、常温では分解されにくい植物由来プラスチックであるポリ乳酸(PLA)も、常温で分解できることが分かりました。

本成果は使用済みの生プラを効率よく分解する技術の開発の基礎になると期待されます。この研究は、農環研が独立行政法人産業技術総合研究所および国立大学法人筑波大学と共同で行ったもので、成果は3月26日から名古屋で開催される日本農芸化学会2008年度大会で発表されます。

研究推進責任者:(独)農業環境技術研究所

理事長  佐藤 洋平

研究担当者:(独)農業環境技術研究所 生物生態機能研究領域 主任研究員

農学博士  北本 宏子

TEL 029-838-8355

広報担当者:(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー

福田 直美

TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8191

電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

[ 成果の内容の詳細 ]

1.現在、使用済みプラスチックの排出量は、国内の総計で1千万トン、農林業用は約15万トンといわれています (環境省、農林水産省)。農業用マルチフィルムは、使用後に畑から回収する労力が大きいため、生プラ製品を使用すると、ゴミの減量だけでなく省力効果も期待されます。しかし、乾燥して気温が低い冬季は分解がほとんど進まないなどの問題があります。そこで、生プラを分解する能力が高い微生物を利用して、使用後速やかに分解させる技術が期待されていますが、有能な生プラ分解菌を環境中から分離するのは難しく、技術開発を進める上でネックになっていました。生プラは脂肪酸ポリエステル構造を持つものが多く使われていますが、動植物の体表面を覆う脂質にも脂肪酸ポリエステル構造が含まれています。そこで、農環研では、植物表面に付着する微生物の中から、生プラを分解できるものを見つけられるのではないかと考えました。

2.イネなどの葉を洗浄した液からは、乳化した生プラを溶かす酵母 (シュードザイマ属酵母) が見つかり、そのほとんどは、生プラ製のマルチフィルムも分解しました (図1)。葉の表面には、このタイプの酵母菌が常在しており、容易に分離できることを発見しました。

3.分離した分解菌は、ポリブチレンサクシネート (PBS)、ポリブチレンサクシネート/アジペート (PBSA)、ポリカプロラクトン (PCL) など、様々な生プラを分解しました。さらに、常温では生分解が難しいとされている、植物由来のプラスチックであるポリ乳酸 (PLA) も常温で分解するなど、脂肪酸ポリエステル構造を持つ様々なプラスチックを分解することがわかりました (図2)。また、生プラ分解酵素と遺伝子を明らかにしました。

4.このように、植物の葉の表面から、分解能力が高い微生物を容易に見つけることができるようになりました。これらの微生物や酵素についてさらに解析を行い、使用済み生プラ製品を効率よく分解する新しい技術の開発を目指します。

本研究は、農林水産省からの運営費交付金、および科学技術振興機構 (JST) 地域イノベーション創出総合支援事業の 「シーズ発掘試験」 研究費による成果です。

図1、図2
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