農業環境技術研究所プレスリリース

プレスリリース
NIAES
平成21年3月25日
独立行政法人 農業環境技術研究所

農環研がイネの生育状況を推定できる気象データベース 『MeteoCrop DB』 を公開
―イネ生産への温暖化の影響を解析するために―

ポイント

・ 地球温暖化などの気候変動がイネ生産に及ぼす影響を推定するための気象データベース 『MeteoCrop DB』 を公開。

・ アメダスの気象データに加えて、気候変動がイネの生育に及ぼす影響の予測や評価に必要な水田の微気象環境のデータを供給。

・ データベースから得られるデータを解析することで温暖化対策技術の開発などに貢献。

概要

独立行政法人農業環境技術研究所 (農環研) は、地球温暖化などの気候変動が日本各地のイネの生産性にどのような影響を及ぼすかを解析するための「モデル結合型作物気象データベース (MeteoCrop DB)」 を開発しました。本データベースはインターネットで公開し、主としてイネの生産に関わる研究者や技術者に対して、今後の温暖化対策のための基礎データとして広く活用してもらうことにしています。

地球温暖化の進行が、イネの生産性に大きな影響を及ぼすことが懸念されています。イネの生育に及ぼす近年の気候変動の影響を把握するためには、イネの収量や品質に大きな影響を及ぼす水田水温や穂温など、一般の気象観測では得られない水田の微気象要素を推定し、データを供給するシステムが必要です。

MeteoCrop DB では、1980年以降のアメダス約850地点における気象データや水田水温の推定値が容易に入手できます。また、データベースに組み込まれたイネ生育モデルと水田物理環境モデルによって、主要品種 (コシヒカリ) の生育ステージや出穂・開花期における穂温が推定できます。既存の作物データベースや栽培試験データと組み合わせることにより、近年の温暖化傾向がイネ生育に及ぼしている影響を容易に調べることが可能となりました。MeteoCrop DB を農業関係者や試験研究ならびに行政機関などへ普及することによって、イネ収量の将来予測や品質低下のリスク評価、温暖化に備えた適応技術の開発などへの貢献が期待されます。

MeteoCrop DB は、3月31日からウェブサイト (http://MeteoCrop.dc.affrc.go.jp) で公開します。また、4月17日に開催する研究所一般公開と、4月18日の農林水産技術会議事務局筑波事務所での特別展示において、開発者による説明と実演を行います。

なお、本研究は運営費交付金による研究プロジェクト 「気候変動が日本およびアジア地域を中心としたコメ生産に及ぼす影響の広域評価手法の開発」 で実施されたものです。

問い合わせ先など

研究推進責任者:

(独)農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台3-1-3

理事長   佐藤  洋平

研究担当者:

(独)農業環境技術研究所 大気環境研究領域

主任研究員  理学博士  桑形  恒男
TEL 029-838-8202

主任研究員  博士(学術) 吉本真由美

主任研究員  農学博士  石郷岡康史

主任研究員  農学博士  長谷川利拡

主任研究員  博士(理学) 西森  基貴

広報担当者:

(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー

福田  直美

TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8191

電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

開発の社会的背景と研究の経緯

地球温暖化の進行が、イネの生産性に大きな影響を及ぼすことが懸念されています。将来の収量低下のリスクを評価するためには、気候変動が実際のイネの生育に及ぼしている影響や要因を総合的に解析することが必要です。また、近年、高温によるコメの品質低下が全国的に問題となっており、このメカニズムを解明し早急に対策を実施することが求められています。

これまでの研究から、イネの生育に及ぼす気候変動の影響は、気象庁の観測などで得られる一般の気象要素だけでは予測できないことが明らかになってきました。そのため、イネの収量や品質に大きな影響を及ぼす水田水温や穂温など、一般の気象観測点では観測されていない水田の微気象要素を全国レベルで推定しデータを供給する簡便なシステムが必要とされています。

研究の内容・意義

1.MeteoCrop DB (図1) には、全国のアメダス地点(約850地点)における1980年以降 (地域によっては1976年以降) の日別気象データが収納されています。アメダスの測定値である気温、風速、降水量、日照時間の4つの基本要素に加えて、各アメダス地点における日射量と湿度の推定値や蒸散要求量の計算値なども収納しました。後者はいずれもイネの収量や品質に重要な影響を与える要素です。日射量は日照時間を用いた実験式より、湿度については近隣の地上気象観測所のデータを利用して推定しています。また、各地点の、地力保全基本調査による土壌データ (日本土壌協会) も付加しました。

2.MeteoCrop DB のメニュー画面、もしくは Google マップの地図上から、任意のアメダスもしくは地上気象観測所を選ぶことによって、日別気象データを容易に取り出せます (図2図3)。これらの日別気象データは、xls 形式 (MS Excel など表計算ソフト用) またはテキスト形式のファイルとして、利用者のパソコンにダウンロードすることもできます。

3.MeteoCrop DB には 「イネ生育モデル」 と 「水田物理環境モデル」 が組み込まれており、主要品種 (コシヒカリ) の生育ステージや生育期間中における水田水温の推移 (図4)、稔実や登熟に影響を及ぼす出穂・開花期における穂温の日変化(図5)などを推定できます。これらのモデルは、実測データに基づく詳細な検証がなされています。

今後の予定・期待

1.MeteoCrop DB から得られるデータと既存の作物データベースや栽培試験データを組み合わせて解析することで、イネ収量の将来予測や品質低下のリスク評価、地球温暖化などの気候変動に対する適応技術の開発などに貢献することが期待されます。

2.現在、2008年12月までの気象データが収納されていますが、今後は1〜3ヶ月遅れてデータが更新できるようにシステムを改良する予定です。またモデルの改良や拡張も予定しており、更新情報については、随時、ウェブサイトでお知らせします。なおデータベースに関するご質問やご意見については、農環研の広報担当者までご連絡ください。

図1.モデル結合型作物気象データベースのメニュー画面

図1.モデル結合型作物気象データベースのメニュー画面

図2.日別気象データの取得画面

図2.日別気象データの取得画面

図3.日別気象データの取得(表示例)

図3.日別気象データの取得(表示例)

図4.イネ生育モデルによる水田水温の計算結果(表示例)

図4.イネ生育モデルによる水田水温の計算結果(表示例)

図5.水田物理環境モデルによる穂温と葉温の計算結果(表示例)

図5.水田物理環境モデルによる穂温と葉温の計算結果(表示例)

用語の解説

アメダス:気象庁が運用している無人の「地域気象観測システム」の別名。全国の約1300地点において降水量を観測しているが、このうちの約850地点(約21km間隔)では、降水量に加えて、風向・風速、気温、日照時間を観測している。

地上気象観測所:気象庁が運用している地上気象観測点の総称。全国に約150地点の観測所があり、気圧、気温、湿度、風向、風速、降水量、積雪の深さ、降雪の深さ、日照時間、日射量、雲、視程、大気現象等の気象観測を行っている。

蒸散要求量:イネ群落が蒸散によって大気中に放出する水蒸気量(イネが生育するために必要な水消費量)を評価するための指標として用いられ、気象条件に依存して変化する。いくつかの指標が提案されているが、本データベースでは、ポテンシャル蒸発量とFAO基準蒸発散量を、日々の気象データから算定している。

水田物理環境モデル:熱収支の原理に基づいて、イネ群落における穂温の日変化などを推定するモデル。また群落内の温湿度や、葉温と水温の日変化も同時に計算される。データベース上でのモデル計算では、地上気象観測所における、気温、湿度、風速、日射量の時別値を入力データとして使用している。

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