農業環境技術研究所プレスリリース

プレスリリース
NIAES
平成21年3月27日
独立行政法人 農業環境技術研究所

農環研がメラミン分解微生物を土壌中から発見
―シマジン分解微生物との組み合わせでメラミンを完全に分解―

ポイント

・ 有害物質メラミンをシアヌル酸まで分解する微生物を発見

・ シアヌル酸を分解する微生物群と組み合せて、メラミンの完全な分解が可能

概要

独立行政法人農業環境技術研究所 (農環研) と興和株式会社 興和総合科学研究所は、メラミンを効率よく分解する新規微生物 (細菌) を土壌中から発見しました。

メラミンは樹脂、塗料の原料として工業的に大量に生産されていますが、近年、食品・飼料原料に意図的に混入される事件があり、ペットや人間に対する健康被害が大きな問題になりました。メラミンによる腎毒性などの健康被害は、メラミンとその分解物であるシアヌル酸との複合効果や、その分解過程の中間にあるアンメリド及びアンメリンによると考えられています。

今回新たに発見した細菌は、メラミンをシアヌル酸まで分解することができます。さらに、農環研が保有するシマジン (除草剤) 分解微生物 (2種の細菌で構成) を用いることにより、シアヌル酸は完全に分解されます。これらの微生物を利用することで、メラミンやシアヌル酸で汚染された環境を浄化・修復する技術開発やメラミンを含む廃棄物の利活用のための基礎になると期待されます。

予算: 農業環境技術研究所運営費交付金研究 (2008)

特許: 出願中 (特願2008-311318) 「アミノ-s−トリアジン系化合物を分解する新規微生物」

問い合わせ先など

研究推進責任者:

(独)農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台3-1-3

理事長   佐藤  洋平

研究担当者:

(独)農業環境技術研究所 有機化学物質研究領域

主任研究員  農学博士  高木  和広
TEL 029-838-8325

広報担当者:

(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー

福田  直美

TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8191

電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

開発の社会的背景

メラミンは樹脂、塗料の原料として工業的に大量生産・利用されており、これら塗料を使った工場から発生する廃棄物については、多くのメラミンが分解されずに残留しています。近年、循環型社会構築のため廃棄物の再生利用が検討されていますが、メラミンとその分解物であるシアヌル酸は人体にとって有害であることから、これらの廃棄物をより有効に利活用するためには、廃棄物中のメラミンおよびその代謝物質を完全に分解する必要があります。

研究の経緯

メラミンはトリアジン環を有する有機窒素化合物であり、その類縁化合物として除草剤シマジンが知られています。農環研では、独自に開発した土壌・木炭還流法 (*1) を用いて、シマジンを含むトリアジン系農薬分解細菌の集積・単離に成功しており、ほかにも多数の分解細菌を保有しています。そこで、これらの分解細菌と土壌・木炭還流法を用いて、メラミンやシアヌル酸を完全に分解できる複合微生物系の構築を試みました。

研究の内容・意義

1.還流装置に、木質炭化素材 (*2) 3g、水田土壌1gを入れ、さらに、研究所が保有する5種類のトリアジン系農薬分解関連細菌を接種し、メラミンを炭素・窒素源とする無機塩培地を還流することにより、メラミン分解細菌の集積試験を行いました。還流45日目以降に還流液中のメラミン消失速度が高まったことから、メラミン分解細菌が集積したと判断しました (図1)。

図1 土壌・木炭還流法によるメラミン濃度の変化 (グラフ):培養開始後45日以降に、還流液から分解細菌を単離しました

図1 土壌・木炭還流法によるメラミン濃度の変化

「矢印」 はメラミンを含む還流液を交換した時点を示す。メラミン分解菌が木炭上に集積し、数が増えてくると、メラミン分解速度が速くなり、より高濃度のメラミンが短期間で分解されるようになった。

2.限界希釈法 (*3) を用いて、還流液からメラミン分解細菌を単離し、菌学的な性質および 16S リボソームRNA遺伝子塩基配列 (*4) をもとに、新種のノカルディオイデス属細菌 ( Nocardioides sp. ) ATD6 株と同定しました (図2a図2b)。

図2a メラミン分解菌(ATD6株)の顕微鏡写真

図2a メラミン分解菌 (ATD6 株) の顕微鏡写真

図2b ATD6 株とその類縁菌の 16S リボソーム RNA 遺伝子塩基配列による分子系統樹

図2b ATD6 株とその類縁菌の 16S リボソーム RNA 遺伝子塩基配列による分子系統樹

枝の長さは塩基配列の類縁度を示す。ATD6 株がノカルディオイデス属に属する新種であることが示されている。

3.分離した分解細菌 ATD6 株は、メラミンをアンメリン、アンメリドを経てシアヌル酸まで分解しましたが、シアヌル酸を分解することはできませんでした(図3図4)。

図3 ATD6株によるメラミンの分解代謝経路:「メラミン − アンメリン − アンメリド − シアヌル酸」の順に、3個のNH2 が OH に置き換わっていく

図3 ATD6 株によるメラミンの分解代謝経路

図4 ATD6株によるメラミンの分解(グラフ):添加されたメラミンは7日後になくなるが、メラミンの代謝産物であるアンメリン、アンメリド、シアヌル酸は27日後もなくならない

図4 ATD6 株によるメラミンの分解

4.一方、シマジン分解細菌の CDB21 株はメラミンを分解できませんが、シアヌル酸を分解することが知られており、ATD6 株と組み合わせることで、シアヌル酸が分解されました。さらに、CDB21 株の生育を助ける別のシマジン分解細菌のCSB1株を加えることで、シアヌル酸の分解速度は高まり、完全に分解されました(図5)。

図5 ATD6 株を含む複合微生物系によるメラミン、シアヌル酸の分解(グラフ):「ATD6+CDB21」系ではメラニンは培養開始後7日目までになくなるが、シアヌル酸は27日目にも残る。一方「ATD6+CDB21+CSB1」系では、メラニンの分解はあまり変らないが、シアヌル酸の分解が速く20日目には全てなくなる

図5 ATD6 株を含む複合微生物系によるメラミン、シアヌル酸の分解

5.このように、新規のメラミン分解細菌と既存のシマジン分解細菌群を組み合わせて新たな複合微生物系を構築することにより、メラミンを完全に分解することができました。

今後の予定・期待

この複合微生物系を木質炭化素材に高密度で集積させ、廃棄物に添加することで、メラミンやシアヌル酸を分解する処理技術の開発をめざします。

用語の解説

*1 土壌・木炭還流法: 微生物源である土壌に木質炭化素材を混和し、対象化合物を唯一の炭素源とする無機塩培地を還流させることにより、分解細菌を迅速に集積させる方法。木質炭化素材は対象化合物(基質)の吸着材及び分解菌のすみかになるため、土壌にいる分解菌が木質炭化素材に集まり、増殖する。

*2 木質炭化素材: 比表面積、細孔分布、pH を分解細菌のすみか及び吸着材として最適化した特殊な木炭。現在は、比表面積が95−110 m2/gの木質炭化素材 A100 を主に使用している。

*3 限界希釈法: 多種類の微生物を含む培養液を10〜100個程度の微生物しか含まれない程度にまで希釈培養することにより、培養液に含まれる微生物の種類を減らしていく方法。

*4 16Sリボソーム RNA 遺伝子塩基配列: 微生物 (細菌) の遺伝子分類の指標 (16Sリボソーム RNA 遺伝子の塩基配列は保存性が高く、わずかな塩基配列の違いにより細菌の種類を識別できる)。

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