ポイント
・ 粉状アルミニウム資材等の散布により、外来植物のセイタカアワダチソウの衰退を促しながら、在来植物を中心とする植生に回復させる技術を開発しました。
・ 実験区では、セイタカアワダチソウの蔓延が抑えられ、チガヤなど在来植物の群落が維持されました。
・ 草原の保全を目的とする事業だけでなく、生物多様性に配慮した道路の法面や畦の緑化などにも応用できます。
1. 独立行政法人農業環境技術研究所 (農環研)[理事長 宮下C貴] は、日本全国で蔓延が問題となっている外来植物であるセイタカアワダチソウを衰退させ、在来植物が優占する植生に誘導する技術を開発しました。
2. これまでの研究により、土壌酸性が強く貧栄養的な土壌環境ではセイタカアワダチソウなどの外来植物は蔓延しにくく、逆にチガヤやススキなど在来植物が生育しやすくなることを明らかにしてきました (図1参照)。すなわち、少なくともセイタカアワダチソウなどいくつかの外来植物は、農業活動などに伴ってアルカリ化・富栄養化した土壌環境を選んで蔓延していると考えられます。
3. この技術は、粉状アルミニウム資材等を散布することにより土壌を酸性化させ、同時に貧栄養化させることで、セイタカアワダチソウが蔓延しやすい土壌状態から、多くの在来植物の生育にとって有利な状態に変えることができます。
4. 除草剤や耕起などによる防除では、セイタカアワダチソウが一旦防除されても、その後再び侵入し蔓延する場合が多いことが問題となっています (図2参照)。本技術を用いることによって、このセイタカアワダチソウの蔓延を2年間以上抑え、代わりにチガヤやススキなど他の在来植物を中心とする植生に置き換えることに成功しました (図3参照)。
5. 本技術は、全国で急速に衰退している草原を保全するための事業だけでなく、生物多様性に配慮した道路の法面の緑化や、畦など農耕地周辺の緑化にも広く適用が可能です。
6. 本成果は、「平舘俊太郎・楠本良延・藤間充・荒木陽子、植生の制御方法」 として平成23年3月2日に特許出願済みです。
予算: 環境省環境研究総合推進費 D-1001「野草類の土壌環境に対する生育適性の評価と再生技術の開発」(2010−2012)
研究推進責任者:
(独)農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台3-1-3
理事長 宮下 C貴
研究担当者:
(独)農業環境技術研究所 生物多様性研究領域
上席研究員 平舘俊太郎
TEL 029-838-8246
主任研究員 楠本 良延
特別研究員 森田沙綾香
特別研究員 小柳 知代
外部研究協力者:
山口大学農学部
准教授 藤間 充
NPO法人 緑と水の連絡会議
研究員 荒木 陽子
広報担当者:
(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー
小野寺達也
TEL 029-838-8191
電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp
我が国の二次的自然である草原には、ススキやチガヤといった在来植物が生育しており、明治初期には国土の30%を上回る広い面積を維持していました。しかし、現在の草原面積は国土の2〜3%にも満たないと見積もられており、またわずかに残っている草原では多くの外来植物が蔓延するなどの影響も加わって、かつての草原に見られた生物群は消滅の危機に瀕しています。このため、草原の生物多様性を保全する観点から、草原の再生や保全に大きな注目が集まっています。
草原の再生や保全にとって大きな障害となっているのが外来植物の蔓延です。特に、外来植物であるセイタカアワダチソウは、日本中に広く分布・蔓延しており、他の在来植物を駆逐するなど生物多様性の保全上大きな問題となっています。
除草剤や耕起などによる防除では、セイタカアワダチソウが一旦防除されても、その後再び侵入し蔓延する場合が多いため、セイタカアワダチソウの蔓延を長期的に抑え、代わりに在来植物が安定的に定着しやすい土壌環境に誘導する手法が求められていました。
1. これまでの研究から、土壌酸性が強く貧栄養的な土壌環境 1) ではセイタカアワダチソウは蔓延しにくく、逆にチガヤやススキなど在来植物が生育しやすいことが分かっていました (図1)。そこで、セイタカアワダチソウが蔓延している果樹園跡地 (山口県山口市) を試験地として選定し、土壌を酸性化するとともに貧栄養的な環境に変えるアルミニウム資材を施用 2) し、その後の植生の推移を調査しました(2m×2m、1区5連制)。
2. その結果、処理区ではおよそ1年後には、在来植物であるチガヤが旺盛に生育し、セイタカアワダチソウの蔓延は約2年間にわたってほぼ完全に抑えられました (図3および図4)。また、処理区では、チガヤの他にも多くの在来植物が生育する多様な植生となりました (図4)。
3. 処理区における出現種数は、処理直後は無処理区よりも少なくなりましたが、およそ10か月後には無処理区と同程度に回復し、その後は無処理区よりもやや多い傾向で推移しています (図5)。
4. 地面を覆う植物の被度は、資材の処理直後は低くなりましたが、およそ13か月後に無処理区と同程度まで回復し、この傾向はその後も維持されています (図6)。
5. 本技術は、外来植物であるセイタカアワダチソウを抑制しつつ、主に在来植物で構成されるより多様性の高い植生を誘導する技術として有効であると考えられます。
6. 本技術は、全国で急激に衰退している草原を保全・再生する事業だけでなく、生物多様性に配慮した道路の法面の緑化や、農耕地周辺(畦など)の緑化にも活用できます。
本技術ではセイタカアワダチソウ群落を衰退させる効果が高いことが明らかになりましたが、今後は他の外来植物群落に対する効果も明らかにしていく予定です。
1) 貧栄養的な土壌環境: リン酸やカルシウムといった植物栄養元素の供給が少ない土壌環境を意味します。日本は降水量が多いため、土壌からカルシウムイオンや硝酸イオンなどが地下へと流亡しやすく、火山灰土壌が広く分布しており、リン酸が植物にとって利用しにくい化学形態で存在しています。このような日本の土壌環境では、植物は栄養元素が少ない状態で生育することを強いられるため、農作物の生産性を高めるには、施肥が不可欠です。施肥を行うと、土壌は富栄養的な環境に変化します。
2) アルミニウム資材の施用: 今回の試験では、塩化アルミニウム6水和物 ( AlCl3・6H2O ) を1m2 あたり 1.2 kg 施用しました。資材から溶出したアルミニウムイオンは水と反応して酸を放出するため、土壌を酸性化させます。同時に、アルミニウムイオンは、植物の多量栄養素であるリン酸の溶解度を下げたり、土壌と強く結合することによってカルシウムイオンなどを溶脱させたりすることで土壌を貧栄養化します。
図1 土壌特性と植生タイプの関係
注:有効態リン酸とは、土壌中に含まれるリン酸の中でも植物が利用しやすい化学形態のものを指します。
図2 刈り取り2年後に蔓延するセイタカアワダチソウ
図3 セイタカアワダチソウ群落からチガヤ群落へ
資材の処理は、植物を刈り取った後行います。
図4 現地試験圃場における相対被度の推移
無処理区では、調査期間を通じてセイタカアワダチソウが旺盛に生育し、蔓延し続けていることがわかります。資材処理区では、セイタカアワダチソウは約半年後には消失し、その後もセイタカアワダチソウの被度は低い状態に抑えられています。代わりに、チガヤが中心となり、同時に他の在来植物も多くが生育するようになりました。
図5 現地試験圃場における平均出現種数の推移
試験圃場において出現する植物種の数は、資材の処理によって一時的に減少しますが、処理後約1年経過すると、無処理区とほぼ変わらないレベルに回復します。
図6 現地試験圃場における植物の被度の推移
資材の処理により、植物の被度(%)は一旦衰退しましたが、翌秋には無処理区と同程度まで回復しました。