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プレスリリース
NIAES
平成24年3月30日
独立行政法人 農業環境技術研究所

重要害虫フジコナカイガラムシの性フェロモンの化学構造を決定
−日本初のコナカイガラムシ類に対する発生予察用誘引剤の市販へ−

ポイント

・ 果樹や野菜の重要害虫であるフジコナカイガラムシのオス成虫を強力に誘引する性フェロモンの化学構造を決定しました。

・ フジコナカイガラムシなどのコナカイガラムシ類は殺虫剤の効果が高い時期が1〜2齢幼虫期に限られることから、防除が難しい害虫として知られています。

・ この性フェロモンを誘引源とするトラップを用いることで、害虫の発生状況をより効率的に把握し、適期に防除することができます。

概要

1. 独立行政法人農業環境技術研究所は、福岡県農業総合試験場および島根県農業技術センターとの共同研究により、重要害虫フジコナカイガラムシのメス成虫からオス成虫を強力に誘引する性フェロモン成分を単離し、化学構造を決定しました。

2. フジコナカイガラムシを含むコナカイガラムシ類は、樹皮のすき間などに隠れる習性がある上に、成熟すると厚いワックスに覆われるため、殺虫剤による防除が難しい害虫です。殺虫剤を効率的・効果的に使用するためには、若齢期(1〜2齢幼虫)を狙って散布する必要があります。

3. 本物質を誘引源とした性フェロモン・トラップを用いることで、この害虫の発生状況を正確かつ簡単に把握・予測することができ、殺虫剤による防除をより効果的・効率的に行えます。

4. 平成24年3月からこの物質を利用した誘引剤が市販されました。これは日本で初めてのコナカイガラムシ類を対象とした発生予察用誘引剤です。

予算: (独)農業環境技術研究所運営費交付金 (2011)

特許: フジコナカイガラムシの性誘引剤.特許第4734553号

問い合わせ先など

研究推進責任者:

(独)農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台3-1-3

理事長   宮下  C貴

研究担当者:

(独)農業環境技術研究所 生物多様性研究領域

主任研究員  田端   純

上席研究員  平舘俊太郎

専門員  杉江   元

TEL 029-838-8254

広報担当者:

(独)農業環境技術研究所 広報情報室 広報グループリーダー

小野寺達也

TEL 029-838-8191 FAX 029-838-8299

電子メール kouhou@niaes.affrc.go.jp

共同研究先:

福岡県農業総合試験場 病害虫部 福岡県筑紫野市大字吉木587

TEL 092-924-2936 FAX 092-924-2981

島根県農業技術センター 資源環境研究部 島根県出雲市芦渡町2440

TEL 0853-22-6698 FAX 0853-21-8380

研究の社会的背景と研究の経緯

フジコナカイガラムシを含むコナカイガラムシ類は、果樹や野菜等の農作物に大きな被害を与える重要な害虫のグループです。コナカイガラムシ類は、樹皮のすき間などに生息する上に、成熟すると厚いワックスに覆われるため、殺虫剤が効きにくい難防除害虫として知られています。特に近年、殺虫剤の多用が周辺の天敵類に悪影響を与えていると考えられ、各地で被害が急増しています。そのため、コナカイガラムシ類の適切な防除体系の確立が求められています。

コナカイガラムシ類の場合、殺虫剤に対する感受性が高い若齢幼虫期を狙って殺虫剤を散布することで、効果的・効率的な防除が期待できます。しかし、フジコナカイガラムシがいつごろ産卵・ふ化するのか、これまでは詳しく分かっていませんでした。そこで、野外での害虫発生調査に役立つ性フェロモン・トラップの開発に取り組みました。

研究の内容

性フェロモンは、一般にメス成虫がオス成虫を呼び寄せ、交尾するために放出する匂い物質です。特定の種のオス成虫だけを強力に誘引することができるので、この物質を誘引源としたトラップ(性フェロモン・トラップ)を使用すれば、対象害虫の発生状況を容易に把握することができます。

研究グループは大量のフジコナカイガラムシをガラス容器内で飼育し、メス成虫(図1)から放出される性フェロモンを含むすべての匂い物質をポンプで吸引・捕集しました。最終的に約 180 万頭分の匂い物質を濃縮し、液体クロマトグラフィーおよびガスクロマトグラフィーで分離しました。その結果、オス成虫(図2)に対する誘引活性を持つ成分(性フェロモン成分)を単離することに成功しました。質量分析計(MS)および核磁気共鳴装置(NMR)を用いた分析により、この成分の化学構造を 2-イソプロピリデン-5-メチル-4-ヘキセニルブチレートと決定しました(図3)。この物質は、わずか 0.001 mg で一日あたり数十頭ものオス成虫を野外で誘引・捕獲できる活性を持つことが確認されました。

今後の予定・期待

この成果を利用した発生予察用誘引剤が、平成24年3月から富士フレーバー株式会社より販売されました (エコモン事業部企画営業:電話 042-555-5186 、ホームページ http://www.fjf.co.jp/jp/ecomone/ )。これを利用すると、フジコナカイガラムシのオス成虫の発生状況を簡単に調査できるようになり、その後の幼虫の発生する時期や量を高い精度で予測すること (発生予察) が可能となります。

従来よりも少ない殺虫剤で効果的にコナカイガラムシ類を防除でき、環境への悪影響が小さい農業体系の確立に貢献するものと期待されます。

用語の解説

性フェロモン: フェロモンとは、「生物個体が生産・分泌し、同じ種類の別個体に特定の行動や生理的応答を引き起こす化学物質」と定義されます。このうち配偶活動に関与し、メスとオスの間で作用するものを性フェロモンと呼びます。

発生予察用誘引剤: 発生予察とは、現時点での害虫の発生状況を把握して、今後の発生時期や量を予測することです。フジコナカイガラムシの場合、新成虫の発生から24℃で約22日後に卵がふ化することが知られています(図4)。発生予察用誘引剤を備えた性フェロモン・トラップを利用すれば、オス成虫の発生状況を簡単にモニタリングすることができるので、1齢幼虫発生時期の目安を予測できます。そのため、効率のよいタイミングで殺虫剤を散布することができます。

質量分析計(MS): 試料をイオン化し、物質の分子量を測定する装置です。また、分子を構成する元素の組成も知ることができます。

核磁気共鳴装置(NMR): 強力な磁場に置かれた原子核と電磁波の相互作用を測定する装置です。分子中の原子のつながりを把握し、分子構造を解析することができます。

(写真)

図1 フジコナカイガラムシのメス成虫
メス成虫は翅(はね)を持たず、全身が白い粉状のワックスで覆われている。

(写真)

図2 フジコナカイガラムシのオス成虫
オス成虫は翅を持ち、飛び回ることができる。

大量のフジコナカイガラムシを容器内で飼育し、空気を吸引して吸着剤に匂いを捕集することで、約180万頭分を収集 → 吸着剤に捕集された匂い成分を有機溶媒で抽出 → クロマトグラフィーでフェロモン成分を精製・単離 → MS、MNR で化学構造を解析 → 性フェロモン成分を「2-イソプロピリデン-5-メチル-4-ヘキセニルブチレート」と決定 (図)

図3 フジコナカイガラムシの性フェロモン分析スキーム
フジコナカイガラムシのメス成虫が放出する匂い成分すべてを収集した後、この中からオスを誘引する性フェロモン成分を単離し、化学構造を決定しました。

越冬幼虫(1〜2齢)[10月中旬〜] → 成虫(越冬世代)[4月中旬〜下旬] → 卵のう(わた状のワックスで覆われる)[5月下旬〜6月上旬] → ふ化(1齢幼虫、ワックス少ない)[6月中旬] → 成虫[7月中旬] → (卵から成虫になることを年2〜3回繰り返す) → 越冬幼虫(1〜2齢)[10月中旬〜] → ・・・ (図)/フジコナカイガラムシの発育期間(24℃)− 卵期間:8日、幼虫期間:26日、産卵前期間:14日 (表)

図4 フジコナカイガラムシの生活環
ふ化直後の1齢幼虫を狙うと高い殺虫剤効果が期待できる。

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