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プレスリリース
NIAES
平成25年6月26日
独立行政法人 農業環境技術研究所

中干し期間の延長で水田から発生するメタンを削減
―水管理による温暖化対策―

ポイント

・ イネの生育向上のために行われている中干しは、強力な温暖化ガスであるメタンの発生抑制にも効果があります。

・ 中干しの期間を通常より3〜14日 (平均約6日) 延長することで、コメ収量への影響を抑えながら、水田からのメタン発生を相当程度 (14〜58%、平均30% )削減できることを、全国9地点での実証試験から明らかにしました。

・ 水田の中干し延長は、実施コストの低い温室効果ガス排出抑制対策として普及が期待されます。

概要

1. (独)農業環境技術研究所 (農環研) は、8県の農業試験研究機関の協力を得て、全国9か所で中干し期間の延長による水田からのメタン発生量の削減効果を検証しました。

2. 試験水田での2年間の実証試験により、稲わらなどの有機物を施用した水田では、通常より中干し期間を3日から1週間程度延長することで、コメ収量への影響を抑えながらメタン発生量を相当程度 (14〜58%、平均30%) 削減できることがわかりました。

3. 中干し延長の取組みは、すでに滋賀県で環境保全型農業直接支払制度の地域特認取組として承認されていますが、今後さらに広く普及することが期待されます。

4. 本成果は、農環研平成24年度研究成果情報に 「主要研究成果 (施策推進上の活用が期待される成果)」 として公表されました。

予算: 農林水産省生産局委託事業 「水田土壌由来温室効果ガス計測・抑制技術実証普及事業」

問い合わせ先など

研究推進責任者:

独立行政法人 農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台 3-1-3

理事長  宮下 清貴

研究担当者:

独立行政法人 農業環境技術研究所 物質循環研究領域

主任研究員  須藤 重人

電話 029-838-8330

広報担当者:

独立行政法人 農業環境技術研究所 広報情報室

広報グループリーダー  小野寺達也

TEL 029-838-8191  FAX 029-838-8299
e-mail kouhou@niaes.affrc.go.jp

研究の社会的背景

メタン*1は、地球温暖化に及ぼす影響が二酸化炭素に次いで大きい温室効果ガスで、二酸化炭素と同様に排出量の削減が求められています。水田土壌から発生するメタンは、わが国の人為起源メタン発生量の約30%を占め、その削減は農業分野における温暖化防止への貢献の一つとして期待されています。

一方、地力を向上させるために稲わらなどの有機物を水田に施用することによりメタン発生量が増加することが知られています。そこで、地球温暖化防止のために、有機物を施用した場合でも、水田からのメタン発生量を効果的に削減する管理技術の開発が求められています。

研究の経緯

水田の中干し*2は、日本の水稲作で、生育向上の一環として広く用いられる手法です。従来から中干しの時期は水田でメタンが多く発生する時期のため、水を抜き土の中に酸素を送ることで、嫌気性のメタン生成菌の活動を抑制する効果があると考えられていました。また、これまでの研究でも、中干しを延長することでメタン発生量を削減できることが示されています。しかし、どのくらいの期間の中干し延長が有効であるのか、収量や一酸化二窒素*3発生などへの悪影響はないのかなど不確かな点が多く、農業現場への普及は進んでいませんでした。

そこで、各県の協力を得て、0日 (常時湛水) から4週間まで中干し期間を設定した全国規模の実証試験を実施し、中干し期間の延長によるメタン発生削減の効果とコメ収量などへの影響を明らかにしました。中干しにかかる水管理そのものは、追加的な営農上のコストが極めて小さいため、経済効率のよい温暖化対策となります。

研究の内容・意義

1. 中干し期間の延長によるメタン発生削減効果を、全国8県9か所の水田で、それぞれ2年間調査しました (図1)。中干し期間を地域の慣行より前あるいは後に延長した結果、中干し期間とそれ以後の湛水期間のメタン発生量が大きく低減することが、明らかになりました (図2)。

2. 地域ごとに、できるだけ収量を落とさない範囲で中干し延長期間を求めたところ、それぞれ3〜14日間 (平均6日間) の中干し延長が適当であることがわかりました。中干し延長を行った水田では、慣行中干しの水田に比べて一作当たりのメタン発生が相当程度 (14〜58%、平均30%) 削減されました (図3(a)表1)。なお、これは、稲わらまたは麦わらがすき込まれている水田についての場合であり、稲わらや麦わらのすき込まれていない水田では、元々メタンの発生量が少ないこともあり、削減効果は認められませんでした。

3. また、中干しを延長することによる一酸化二窒素の発生量の増加は、メタン発生量と比べてごくわずかであることも確認しました。

4. 中干しを延長した期間と水田における収量 (精玄米重) の関係を調べてみると、慣行の中干しを実施した水田に対して14%減収から10%増収で、平均すると3%の減収となりました (図3(b))。中干し期間をさらに延長すると、より大きな収量減が認められたことから、中干し延長は1週間程度が適当であると考えられました。

5. 一方、多くの地点において中干しの延長によって登熟歩合が向上し (図3(c))、タンパク含量の低下が認められる (図3(d)) など、収穫したコメの品質が向上しました。

6. この実証試験の成果は 「水田メタン発生抑制のための新たな水管理技術マニュアル」 としてまとめられ、農業環境技術研究所のウェブサイトでPDFファイルが公開されています。

(技術マニュアルのページ http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/manual.html

7. 水田メタン発生抑制のための中干し期間延長は、滋賀県において、環境保全型農業直接支払制度の地域特認取組*4として承認されました。「環境こだわり農業」 を推進している滋賀県では、平成24年産の水稲栽培面積の約2割で中干し延長が取り組まれています。

今後の予定・期待

1. 夏期高温対策及びカドミウム対策として水稲出穂の前後各3週間を湛水管理している水田では、中干し延長により収穫期の機械作業に必要な地耐力を高める効果も期待されています。

2. 環境省の温室効果ガス排出量算定方法検討会において、本成果により得られたメタン削減効果を日本国インベントリ報告書に反映することが検討されています。

3.農環研では、本成果によるメタン発生削減を図りながら、稲わらなど有機物施用による土壌炭素蓄積効果(二酸化炭素吸収効果)を同時に高める技術を開発するため、温室効果ガス全体への影響を総合的に評価する研究を進めています。

用語の解説

*1: メタン: 主要な温室効果ガスの一つ。化学式CH4。二酸化炭素の約21倍の地球温暖化効果をもつ。水田、反すう動物、化石燃料の採掘と燃焼等が主な発生源である。

*2: 中干し: 水稲作において、最高分げつ期に1〜2週間程度、水田水を落水させること。増収、品質向上に効果がある。土中深く酸素を送ることができるため、根の力の衰えを防ぐとともに窒素の過剰吸収を抑え、カリウムの吸収を良くし根を硬くすることができる。さらにこの時期の中干しは、無効分げつと稈(かん)基部の節間伸張を抑制し、耐倒伏性と登熟歩合を高める効果がある。

*3: 一酸化二窒素: 主要な温室効果ガスの一つで、亜酸化窒素ともいう。化学式N2O。二酸化炭素の約310倍の地球温暖化効果をもつ。窒素肥料を施用した土壌、家畜ふん尿、工業生産プロセス等が主な発生源である。湛水状態の水田においてはほとんど発生しないが、中干しなどの落水により発生することが知られている。

*4: 地域特認取組: 地域を限定して農林水産省が支援の対象とする環境保全型の営農活動。農林水産省は、農業者等が化学肥料・化学合成農薬を原則5割以上低減する取組みとセットで、地球温暖化防止や生物多様性保全に効果の高い営農活動に取り組む場合に支援する「環境保全型農業直接支払制度」を実施しているが、そのなかで、地域の環境や農業の実態等を勘案した上で、平成24年度から適用されている。

図1 全国8県9地点の試験地

山形(鶴岡)、山形(山形)、福島、新潟、愛知、岐阜、徳島、熊本、鹿児島

図2 熊本県、福島県および新潟県におけるメタン発生量

各図中の下部に示した2色の横棒は各試験区における湛水期間を示します。7月付近の空白部分が中干し期間に相当します。例えば、福島の慣行中干し期間は6月30日〜7月10日(11日間)です。
縦軸はメタン発生量(フラックス)、横軸は観測日。慣行区(青)と中干し延長区(オレンジ)の間の水色の部分の面積は、慣行から延長によって減少したメタン発生量に相当します。新潟の点線部分は湛水と落水を繰り返す間断灌水期間です。

図3 中干し延長によるメタン発生量(a)、精玄米重(b)、水稲の登熟歩合(c)、精玄米のタンパク含量(d)の変化

慣行の水管理における値を 100 とした場合の、中干し延長区における割合を示します。各地点のデータは、2か年のデータのある場合、その平均値を示します。各図の右端の 「平均」 はデータのある地点全ての平均値を示します。ND (No Data) は未計測です。

表1 各調査地点の慣行・改良中干し日数
調査地点慣行中干し日数改良中干し日数メタン平均削減効果
(対慣行比 %)
山形(鶴岡)112263
山形(山形)1452
福島142166
新潟142166
愛知1385
岐阜1370
徳島1481
熊本1063
鹿児島注) 1585

注)鹿児島については間断灌水による削減効果

新聞掲載: 日本農業新聞(6月27日)、農業共済新聞(6月26日)、日刊工業新聞(6月27日)、化学工業日報(6月28日)、全国農業新聞(8月30日)

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