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プレスリリース
NIAES
平成26年1月16日
独立行政法人 農業環境技術研究所

霞ヶ浦におけるカワヒバリガイの分布拡大を予測
−2018年には湖岸全域に定着−

ポイント

・ 2005年に霞ヶ浦での生息が確認された特定外来生物カワヒバリガイは、2012年にはすでに湖岸の約8割に分布しています。

・ 過去の分布拡大の状況から、2018年までに湖岸全域に定着すると予測されます。

・ これらの知見は、霞ヶ浦の水を扱う利水施設や流出河川の流域での被害対策を行う上で重要な基礎情報です。

概要

1. 独立行政法人農業環境技術研究所 (農環研) は東邦大学理学部と共同で、霞ヶ浦における特定外来生物カワヒバリガイの分布を調査し、2018年までに霞ヶ浦の湖岸全域にカワヒバリガイが定着する可能性が非常に高いことを示しました。

2. 農業用水など利水施設に被害を及ぼす特定外来生物カワヒバリガイは、霞ヶ浦で2005年に初めて生息が報告され、2006年の調査では湖岸の約半分の範囲までの生息が確認されていました。

3. 2012年に霞ヶ浦湖岸全域を調査したところ、湖岸の約8割でカワヒバリガイの生息が確認され10分間当たりの採集個体数は2006年の調査時の3.8倍に増加していました。さらに、遅くとも2018年には霞ヶ浦の湖岸全域に定着することが予測されました。

4. 霞ヶ浦の水を農業用水や生活用水として利用している地域は茨城県南部を中心に広い範囲に及んでおり、一部の地域ではすでにパイプの閉塞等の被害が発生しています。ここで得られた結果は、本種に対する早期の対策を行う上での重要な基礎資料となります。

5. 本研究の結果は、2013年12月出版の日本ベントス学会誌に掲載されました

伊藤健二・瀧本岳 (2013) メタ個体群モデルを用いた霞ヶ浦におけるカワヒバリガイの分布拡大予測. 日本ベントス学会誌 68: 42−48.

予算: 農業環境技術研究所運営費交付金 (2012)、文部科学省科学研究費補助金(2011−2014)

問い合わせ先など

研究推進責任者:

独立行政法人 農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台 3-1-3

理事長  宮下 C貴

研究担当者:

独立行政法人 農業環境技術研究所 生物多様性研究領域

主任研究員  伊藤 健二

TEL029-838-8252

東邦大学理学部

准教授  瀧本   岳

TEL 047-472-5228

広報担当者:

独立行政法人 農業環境技術研究所 広報情報室

広報グループリーダー  小野寺 達也

TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8299
e-mail kouhou@niaes.affrc.go.jp

研究の社会的背景

1. 特定外来生物カワヒバリガイ Limnoperna fortunei は中国・朝鮮半島を原産とする淡水に生息する付着性二枚貝であり、利水施設などに発生して通水パイプを閉塞させるなどの悪影響を与えるとともに、侵入先の在来生態系に大きな変化をもたらすことが知られています。

2. 霞ヶ浦は日本で二番目に大きい湖であり、関東圏の水需要を支える重要な水源です。

3. 近年、利水施設へのカワヒバリガイの侵入と通水障害・悪臭などの被害が各地で報告されていますが、実際に対策を講じている施設はまだ少ないのが現状です。水源となる地域でのカワヒバリガイの生息状況の把握と将来予測を行う事は、これらの施設のより早い段階での対策を行う上で有益な情報となります。

研究の経緯

関東地方でカワヒバリガイの生息が初めて確認されたのは2005年であり、農環研はその直後から本種の関東地方における生息状況の把握に取り組んできました。2007年には霞ヶ浦全域での分布調査結果を、2008年には利根川を中心とする広域調査の結果を報告し、霞ヶ浦への侵入が2004年までさかのぼることができること、河川の流れや、水路などの人為的な水利用に伴って生息域を拡大していることなどを明らかにしてきました (2007年2008年プレスリリース)。

利根川下流域に生息するカワヒバリガイの分布はすでに広範囲に及んでおり、一部の地域では通水障害などの被害が発生しています。しかし、広範囲を対象とした継続的な定量調査は十分行われておらず、分布や密度が拡大傾向にあるのか、あるいは定常状態で落ち着いているのかなどについて明らかになっていませんでした。

農環研と東邦大の研究チームは、2012年に霞ヶ浦の湖岸全域を対象とした生息調査を行い、その結果を2006年の調査結果と比較することで、カワヒバリガイの生息域と密度が過去6年間でどのように変化したのか、そしてこれからどうなっていくのかを明らかにしようと考えました。

研究の内容・意義

1. 2012年の5月から6月にかけて霞ヶ浦湖岸全域でカワヒバリガイの生息状況を調査しました (図1)。霞ヶ浦湖岸を1km間隔で130の区画に分け、区画ごとに一回ずつ、湖岸の幅5mを対象に調査員1人あたり10分間の採集を行い、得られたカワヒバリガイの個体数をその区画の密度データとしました。その結果、調査した125地点のうち104地点 (83.2%) でカワヒバリガイが見つかりました (図2)。2006年に行った同様の調査の結果と比較すると、採集個体数の平均値は3.8倍に増加していました。

2. 2012年と2006年の調査で得られた分布データを湖岸線2km単位で整理し、6年の間に霞ヶ浦湖岸で生じた分布拡大の距離を推定しました。その結果、霞ヶ浦では6年の間に、約10km離れた地点まで分布が拡大していました (図3)。

3. この拡大距離の推定値を元に計算すると、2012年の調査での 「未生息地」 に、2018年には99%以上の確率でカワヒバリガイが新たに定着することが示されました (図4)。

4. 今回の結果は、霞ヶ浦湖内全域にカワヒバリガイが急速に拡大・増加しつつあることを示しています。霞ヶ浦の水は茨城県南部を中心とする広い範囲で利用されており、一部の地域ではすでにカワヒバリガイの発生に伴うパイプの閉塞等の被害が発生しています。今後は、これらの地域を対象とする侵入のモニタリングを行うとともに、個体数の変動に応じた被害の緩和策が必要になると考えられます。農林水産省ではカワヒバリガイによる被害の軽減、または被害の未然防止を図るため 「カワヒバリガイ被害対策マニュアル」 を作成・公開しています。これらの情報を参考にした、カワヒバリガイの侵入・増加に備えた対策が求められます。

http://www.maff.go.jp/j/nousin/kankyo/kankyo_hozen/k_hozen/kawahibarigai.html よりダウンロード可能

今後の予定・期待

広域調査の結果、関東地方にはカワヒバリガイの生息が確認されていない地域・水系が残されていることも明らかになっています。今後は、これらの地域への新たな侵入防止に貢献すべく、河川や水路などを対象とした広範囲の分布拡大予測を行う予定です。

用語の解説

特定外来生物: 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律 (外来生物法)で指定され、規制・防除の対象となっている侵略的外来種。侵略的外来種とは、生態系、人の生命・身体、農林水産業に被害を及ぼすおそれのある外来生物。

湖底から引き上げた鉄骨部材の表面に付着した数100個体?のカワヒバリガイ(写真)

図1 霞ヶ浦湖岸に生息するカワヒバリガイ

霞ヶ浦の湖岸の各領域の調査で確認されたカワヒバリガイ個体数(2006年と2012年)を図示(地図)

図2 霞ヶ浦湖岸におけるカワヒバリガイの分布 (左:2006年、右:2012年)
赤い円の大きさは、1人の調査員が10分間に採集した個体数を表す。2006年には湖岸の45.6%、2012年には湖岸の83.2%でカワヒバリガイの生息が確認された。

新たに定着した生息地までの距離をもとに、さらなる分布拡大を予測する(各時点の生息地地図と定着成功確率のグラフ)

図3 異なる時期に調査した分布図から分布拡大予測を行う方法
2006年の調査で「未生息地」だった調査地が2012年に「生息地」になる確率(定着に成功した確率)と、2006年に一番近い「生息地」だった調査地との距離の関係を求めた。
生息地から離れるほど定着できる確率は減少し、15km離れるとほとんど定着できない。
10.69km離れた地点で定着できる確率は50%になる。
この関係式を元に2012年の「未生息地」が2018年に「生息地」になる確率を推定する。

2006年、2012年、2018年にカワヒバリガイが生息する領域を図示(地図)

図4 霞ヶ浦湖岸におけるカワヒバリガイの分布の変化 (左:2006年・2012年) と分布拡大の将来予測 (右:2018年)
2018年の予測図では、定着確率の推定値が99%以上の地点を「生息地」として図示した。2018年には全ての湖岸にカワヒバリガイが定着すると予想される。

新聞掲載: 毎日新聞、日本経済新聞(1月17日)、日経産業新聞、朝日新聞(夕刊)(1月20日)、東京新聞(1月22日)、農業協同組合新聞(1月24日)、科学新聞(1月31日)、茨城新聞(2月3日)、常陽新聞(2月8日)、読売新聞(2月11日)

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