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プレスリリース
NIAES
平成27年8月7日
国立研究開発法人農業環境技術研究所

日本・北米・ハワイの外来昆虫リストを比較
−地域ごとの外来昆虫相の特徴が明らかに−

ポイント

・ 日本列島、南西諸島、小笠原諸島、北米大陸、ハワイ諸島の5地域の外来昆虫相を比較しました。

・ 全地域を概観したところ、衛生害虫や施設害虫を多く含む分類群が外来昆虫となっていることがわかりました。

・ 小笠原諸島やハワイ諸島などの海洋島は外来昆虫の侵入・定着を招きやすい、北米大陸・ハワイ諸島は生物的防除の目的で導入された外来昆虫が多い、など地域ごとの特徴が明らかになりました。

・ 外来昆虫の全体としての特徴、地域の特色、それぞれを正しく認識することで、国内未侵入害虫の潜在的リスクを評価する際の基礎資料となります。

概要

1. 国立研究開発法人農業環境技術研究所(農環研)が調査・蓄積してきた日本の外来昆虫*1 のリストを、北米大陸およびハワイ諸島の外来昆虫リストと比較して、日本の外来昆虫相の特徴を明らかにしました。

2. ゴキブリ目、ノミ目のような全世界的な衛生害虫*2 やアザミウマ目、カメムシ目のような小型の施設害虫*3 は、外来昆虫となりやすい傾向がありました。

3. 各地域の外来昆虫の原産地を比較したところ、移民や貿易など歴史的な背景と、気候的な類似性によって説明できる傾向が示されました。

4. この成果は、外来生物に関する専門学術誌 Biological Invasions の電子版に掲載*4 されました。

予算: 農業環境技術研究所運営費交付金(2015)

問い合わせ先など

研究推進責任者:

国立研究開発法人農業環境技術研究所 茨城県つくば市観音台 3-1-3

理事長  宮下 清貴

研究担当者:

国立研究開発法人農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター

主任研究員   山中 武彦

TEL: 029-838-8173

広報担当者:

国立研究開発法人農業環境技術研究所 広報情報室

広報グループリーダー  小野寺 達也

TEL 029-838-8191
FAX 029-838-8299
E-mail kouhou@niaes.affrc.go.jp

研究の社会的背景

1. これまで農環研では、どのような昆虫が日本国内に侵入して問題となっているかを知るため、国内すべての外来昆虫をリストアップする試みを続けてきました。こうした取組は、侵略的外来生物に対する警鐘となってきました。

2. 世界各地でも外来昆虫が問題になっていますが、日本に侵入する外来昆虫にどのような傾向があるかについて、他地域の外来昆虫リストと比較して検討する試みは、これまで行われていませんでした。

3. このような国際的な比較によって、日本に侵入する外来昆虫相の特徴がさらに明らかになり、国内未侵入害虫の潜在的リスクを評価する際にも、重要な基礎資料となります。

研究の経緯

1. 農環研がこれまでに蓄積してきた日本の外来昆虫リストを元に、外来昆虫種の追加や修正などの再点検を行うとともに、原産地の情報を付け加えました。リストは、北海道・本州・四国・九州および周辺諸島(日本列島)、沖縄を含む南西諸島(南西諸島)、小笠原諸島に分けて再構築しました。

2. また、米国農務省で作成された北米大陸の外来昆虫リストを農環研の外来昆虫リストと同じ方法で、最新のデータにアップデートしました。ただし、ここで扱う北米大陸には、カナダと米国の州(除くハワイ州)が含まれますが、メキシコについては十分なデータがそろわなかったため除外しました。

3. さらに、ハワイのビショップ博物館が公開している陸上節足動物チェックリスト ( http://data.bishopmuseum.org/HBS/checklist/query.asp?grp=Arthropod ) を元に、ハワイ諸島の外来昆虫リストを作成しました。

4. 本研究ではさらに、既存の文献から各地域の在来昆虫のリストも作成し、地域間の在来昆虫相の違いを考慮しながら、外来昆虫相の特徴を考察しました。

研究の内容・意義

1. 外来昆虫の種数を比較したところ、北米大陸(3,540種)が最も多く、次いでハワイ諸島(2,651種)、日本列島(471種)、南西諸島(349種)、小笠原諸島(168種)の順でした(図1)。また、面積あたりの侵入数は、小笠原諸島が特に多く(10.6種/km2)、次いで南西諸島(1.6種/km2)となっていました。一方、在来昆虫種に対する外来昆虫種比率、すなわち外来昆虫の侵入のしやすさは、一度も大陸と陸続きになったことがない海洋島によって形成されるハワイ諸島(0.50)や小笠原諸島(0.15)が特に高く、大陸の縁に位置する大陸島からなる南西諸島(0.046)や日本列島(0.019)、北米大陸(0.044)との違いが明らかでした。

2. どのような分類群の昆虫がどの地域に侵入したかを明らかにするため、5地域の分類群構成比に対して統計的解析手法のひとつである非計量多次元尺度法(NMDS *5)を適用して解析しました(図2)。NMDSの第1軸では、各地域の外来昆虫相(マイナス側)と在来昆虫相(プラス側)がはっきりと分かれました(図2 左)。また、分類群で見ると、同じ第1軸上でマイナス側に位置しているのは、ゴキブリ目、ノミ目、アザミウマ目、カメムシ目であり(図2 右)、ゴキブリやノミのような衛生害虫、アザミウマ、ウンカ、アブラムシのような小型の吸汁性の施設害虫は、原産地以外の地域に侵入しやすい傾向があると考えられます。NMDSの第2軸は、北米大陸・ハワイ諸島、日本列島、南西諸島・小笠原諸島など、地理的な相違や気候の違いを表していました。

3. また、北米大陸やハワイ諸島の外来昆虫相の大きな特徴は、ハエ目やハチ目が多いことです(図1)。北米大陸やハワイ諸島では、これまで意図的に300種以上もの外来昆虫を導入してきたことが知られており、多くは、生物的防除を目的として使われています(表1)。具体的には、寄生性のハチやハエ、捕食性のテントウムシ類は、外来害虫の防除に、食植性のハムシ類やガなどのチョウ目昆虫は、外来植物の防除に利用されています。もちろん現在、北米大陸やハワイ諸島でも、外来昆虫を導入する際に、寄主範囲の特定など生物学的研究調査など危険性の検討が行われていますが、主要な農業害虫や雑草の多くが外国由来であるため、生物的防除の目的で外来生物を導入する際の心理的な障壁が低く、これらを利用した試みが古くから行われてきたと考えられます。日本でも、米国ほど多くはありませんが、施設栽培を中心に外来の天敵昆虫が利用されています。これについては、環境省が定めるガイドラインに沿って環境影響評価を行い、慎重に行われています。

4. 各地域で記録された外来昆虫の原産地を生物地理区 *6 ごとに推定したところ、日本列島では、旧北区のうちアジア地域(29.7%)、東洋区(21.7%)からの外来昆虫が多く、気候的類似性や歴史的なつながりの影響がうかがわれます(図3)。小笠原諸島と南西諸島は、東洋区が最も多く(それぞれ 29.2%、43.6%)、気候的類似性の強い影響がうかがえます。さらにエチオピア区(アフリカ)からの外来昆虫もやや多い傾向にありますが、特に日本とアフリカ大陸のつながりが強いわけではなく、多くは、ゴキブリやアリ、貯穀害虫などの全世界的に広がってしまった害虫です。

5. 北米大陸では、旧北区のうちヨーロッパ地域からの外来昆虫が最も多く(47.6%)、次いでアジア(21.4%)となっています。これは、北米大陸への移民が主にヨーロッパからであった歴史的な背景が想定されます。

6. ハワイ諸島では、新北区(北米)からの外来昆虫が最も多く(16.3%)、米国の一州として、多くの物資を大陸から受け入れている影響と考えられます。しかし、東洋区を始め、オーストラリア区やオセアニア区を原産地とする昆虫も多く、気候的類似性の影響もうかがわれます。

今後の予定・期待

1. われわれの研究グループは日・米に加えて、ニュージーランド、ヨーロッパ各国の研究者らと協力して、より広域の害虫相比較を準備しています。世界的な外来昆虫の分布を調べることで、分布を世界的に拡大している害虫の特性を明らかにできると考えられます。

2. さらに、全世界的に外来昆虫のリストを公開して相互に活用することにより、これまで各国が別個に行っていた害虫の共通評価が可能になり、各国の未侵入害虫のリスク評価を行う際の基礎データとして活用が期待されます。

3. 今回の解析に用いた、日本列島、南西諸島、小笠原諸島、北米大陸、ハワイ諸島の外来昆虫種リストは、Biological Invasions誌のアーカイブに、最も自由度の高いCC-BY *7 ライセンスを付けて公開されています。また、北米大陸・ハワイ諸島の外来昆虫リストは、農環研が独自に開発する日本未侵入害虫評価・分布予測データベース(NAPASD) *8 にも格納し、将来の分布拡大予測を行うなど各害虫の経済被害危険度評価の研究に活用されます。

用語の解説

*1 外来昆虫: 日本に生息する外国由来の昆虫については、外来昆虫、侵入昆虫、侵略的外来昆虫など、様々な呼び名がありますが、本研究では、意図的に導入された昆虫や特に農業害虫や衛生害虫とならない昆虫も全部含めて解析に使用しているため、外来昆虫という名称を使用しました。

*2 衛生害虫: ゴキブリ目、ノミ目、シラミ目など、人間の生活衛生環境に害を与える昆虫を指します。古くは大航海時代から、人間の活動範囲の拡大に伴い、荷物などに紛れて、または人間や動物に付着して移動した結果、全世界的に分布するようになったと考えられます。

*3 施設害虫: ガラス室やビニールハウスなどの栽培施設で発生する害虫の総称。アザミウマ目や、カメムシ目の中でもウンカ、ヨコバイ、アブラムシの仲間など、小型の吸汁性昆虫が主要なメンバーです。苗や生花などに付着して侵入する場合が多いですが、小型で発見されにくいことから、他の昆虫より侵入可能性が高いと考えられます。また、侵入先では温暖な施設内に持ち込まれるため、原産地より寒冷な地域でも生息しやすく、定着可能性も高いと考えられます。

*4 Yamanaka T, Morimoto N, Nishida GM, Kiritani K, Moriya S, Liebhold AM. 2015 Comparison of Insect Invasions in North America, Japan and their Islands. Biological Invasions in press ( http://dx.doi.org/10.1007/s10530-015-0935-y )

*5 NMDS: 非計量多次元尺度法。地点間の分類群構成の違いを反復最適化アルゴリズムによって平面上にプロットします。地点の特徴的な違いを視覚的に概観することができます。

*6 生物地理区: 出現する生物種の特徴のまとまりから、世界全体を8つの地域に分ける方法。19世紀の生物地理学者ウォーレス(Alfred Russel Wallace)の区分けが元になっています。本研究ではさらに、旧北区をヨーロッパとアジアに分けて整理しました。

本研究で使用した「生物地理区」:旧北区(アジア)、旧北区(ヨーロッパ)、東洋区、エチオピア区、オーストラリア区、オセアニア区、新北区、新熱帯区 (地理区ごとに色分けした世界地図)

*7 CC-BY: クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのひとつ。著作権を放棄せずに、改変はもちろん、営利目的での二次利用も許可される最も自由度の高いライセンス形態です(URL: http://creativecommons.jp/licenses/ )。

*8 NAPASD: 日本未侵入害虫評価・分布予測データベース (New Approach for Perspective of Alien Species Distribution)。現在、セキュリティ上の問題からシステムの一般公開を行っていませんが、要請に応じてデータの提供が可能です。また前身であるアジア・太平洋外来生物データベース (APASD:Asia‐Pacific Alien Species Database) は、休止し定期的なアップデートは行っていませんが閲覧可能です( http://www.niaes.affrc.go.jp/techdoc/apasd/ )。

研究担当者

国立研究開発法人農業環境技術研究所 農業環境インベントリーセンター

主任研究員   山中 武彦

国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 畜産草地研究所

主任研究員   森本 信生

5つの地域ごとの分類群別種数グラフ

図1 5地域(日本列島、南西諸島、小笠原諸島、北米大陸、ハワイ諸島)における外来昆虫の種数と目レベルの分類群構成

5つの地域ごとの分類群別種数グラフ

図2 非計量多次元尺度法(NMDS)による5地域における外来昆虫/在来昆虫相の特徴づけ
左図:地域ごとのプロット。座標上の近い点ほど分類群構成が似ています。 右図:分類群ごとのプロット。座標上での分類群の平均的位置を示しています。主要10分類群は、分類群名を付して黒点で、それ以外は白丸で示しました。

表1 意図的導入昆虫の種数(5地域・分類群別)

日本列島 小笠原諸島南西諸島 北米大陸ハワイ諸島
ハチ目20110199168
コウチュウ目215 78110
ハエ目1--4232
チョウ目2-1826
カメムシ目2--412
アザミウマ目--111
アミメカゲロウ目1---2
合計28217332351
5つの地域ごとの分類群別種数グラフ

図3 5地域における外来昆虫の原産地域の比較
データ整備上の技術的な問題から、台湾は東洋区に、メキシコは新熱帯区に分類しました。原産地が広域にまたがる種や、境界に生息する種については、複数の原産地を記録しているため、全体の合計が100%を超えています。

新聞掲載: 化学工業日報(8月25日)

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