農業環境技術研究所環境化学トピックス(2005) > 環境ホルモンとは

環境ホルモンとは

環境中にあって、私たち人間を含めた生物の本来のホルモン作用をかく乱する物質を一般に「環境ホルモン」と呼んでいます。
1960年から1970年代頃にかけて、これまでの医学、生物学、毒性学では説明が困難な現象が人や野生生物に見られるようになってきました。これまでに魚類、は虫類、鳥類といった野生生物の生殖機能異常、生殖行動異常、雄の雌性化、孵化能力の低下の他、免疫系や神経系への影響等が多く報告されてます。その直接の原因が作用メカニズムまで明らかにされているものではありませんが、異常が認められた生物の生息環境中に存在するDDT、PCB、TBT、ダイオキシン、農薬などの化合物への曝露との関係、また一部にはノニルフェノールによる影響も指摘されています。

環境ホルモンについてもっと詳しく知りたい方は
 化学物質の内分泌かく乱作用について環境省のページ)

環境ホルモンの影響(イメージ)
環境ホルモンの作用(内分泌かく乱作用)に関しては、これまで私たちが持っていた「ものさし」では測定が困難あるいは不可能であるため、これまでの検定法を改良するか、または新しい検定法を開発する必要があります。

研究紹介;メダカを使って化学物質の内分泌かく乱作用を簡易に検出する

孵化したばかりのメダカを化学物質に2週間の曝露を行い、孵化後2ヶ月以内にオスからメスに性転換した個体を検出できる試験系を開発しました。この試験系により魚類(メダカ)に対する化学物質の内分泌かく乱作用を簡易に判別できます。
1.d-rR系統メダカ*
この系統のメダカは、体色は本来の性別と緊密に関連づけられているため、オスの黄色およびメスの白色は不変です。一方、生殖器官の性分化や尻ひれの形に代表される形状はホルモンの作用によって変化を受けやすい。本試験法では、メス特有の幅細・丸みのある尻ひれを有する個体は、生殖組織も卵巣へ分化している。これらの形質を利用して、性転換した個体を容易に検出することができます(図1)。
*d-rR系統メダカは、名古屋大学の(故)山本時男博士(1953)によって樹立された系統のメダカです。
d-rR系統メダカの性転換
d-rR系統メダカ
2.2週間の暴露による簡易検定
メダカ仔魚を試験物質に2週間曝露して、その後試験物質を含まない飼育水に移し、外見的に雌雄が判別できるまで40日間飼育する。そして体色と尻ひれの形状等の観察を行い、オスからメスに性転換した個体を調査します。この性転換率により内分泌かく乱の程度を判定します。この試験法を用いることにより、これまで多大な労力を要していた生殖組織の顕微鏡観察の作業を省くことができ、簡易な検定が可能になりました。また、これまで2ヶ月以上必要であった化学物質曝露期間が2週間に短縮できました(図3)。
メダカへの曝露スケジュール
3.実施例
実施例として、弱い女性ホルモン作用を有する4-ノニルフェノールを本試験法にすると、300μg/l濃度区において75%の個体でオスからメスへの性転換が確認されます(図4)。また、水田で使用されることが多い除草剤のうち、メフェナセット、シメトリン、ベンチオカーブ、イマゾスルフロン、プレチラクロールに対して試験を行った結果、性転換した個体は検出されず、これらの農薬は女性ホルモン様作用を指標とする内分泌かく乱作用はないことが明らかになりました(図4)。
メダカ仔魚に対するノニルフェノールおよび各種除草剤の内分泌かく乱作用
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