研究トピックス

研究所の概要 

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温室効果ガス削減への貢献

水田からのメタン発生抑制技術を開発

⇒ 農業分野での温室効果ガス排出量削減に貢献

水田からのメタン発生を抑制するための中干しや田畑輪換など、栽培・土壌管理技術の効果を定量的に評価しています。また、各地での実証事業により削減可能量を検証しました。

温室効果ガス発生制御実験施設 (写真);各試験区(畑と水田)で、ダイズと水稲が栽培され、その中に温室効果ガス発生量を自動測定するためのチャンバー(透明アクリル樹脂のボックス)が設置されている。
農地からの温室効果ガスの発生を長期的に測定するための施設・装置

温室効果ガス(メタン、一酸化二窒素)発生量の推計精度を向上

⇒ 世界の地球温暖化対策の推進に貢献

新たな推計方法が、IPCCの国別インベントリガイドラインや我が国の温室効果ガス排出・吸収量報告書に採用されました。

「温室効果ガスインベントリに関するIPCCガイドライン」の表紙 (写真)   IPCCの2007年度ノーベル平和賞受賞の際にIPCC議長R・パチャウリ博士から協力研究者(八木一行)に贈られた感謝状 (写真)
IPCCガイドラインの表紙(左)とIPCCのノーベル平和賞受賞の際の協力研究者への感謝状(右)

食料と環境の安全性確保

水稲のカドミウム汚染低減技術を開発

⇒ より安全な農産物の生産を可能に

水管理などによりカドミウム吸収を抑制する技術と土壌中のカドミウム濃度を低減する技術が、「水稲のカドミウム吸収抑制対策のための対策技術マニュアル」 (PDF) および 「コメ中のカドミウム濃度低減のための実施指針」 (PDF) としてまとめられ、各地域で活用されています。

カドミウム汚染水田の土壌洗浄技術の概要 (組写真); [化学洗浄剤施用]−[洗浄剤と土壌を混合(トラクタによる撹拌作業](写真)−[カドミウムを含む田面水を排水処理(排水処理装置で水中のカドミウムを除去)](写真)−[カドミウムを含まない排水(ホースからの排水が排水路に流される)](写真)
農業環境技術研究所が開発したカドミウム汚染水田の土壌洗浄技術の概要

低カドミウム米の作出

⇒ お米からのカドミウム摂取を大きく削減できます

コシヒカリ種子へのイオンビーム照射によって、土壌中のカドミウムをほとんど吸収しない品種(コシヒカリ環1号)を作り出しました。遺伝子マーカーを開発したことにより、遺伝子組換え技術を使わずに、ほとんどのイネ品種に低カドミウムの性質をもたせることが可能になりました。

コシヒカリと低カドミウムコシヒカリの玄米カドミウム濃度(棒グラフ);3つの農地で栽培したコシヒカリは食品衛生法で定められたカドミウム基準値( 1 キログラム当たり 0.4 ミリグラム)を超えたが、低カドミウム系統では 0.03 ミリグラムで、97 パーセント以上の濃度低減が示された。/カドミウム吸収抑制のしくみ(模式図):水稲の根の細胞の表面には土壌からカドミウムを吸収するタンパク質があるが、低カドミウム変異体ではこのタンパク質が変化してカドミウムを吸収できないため、導管を通って地上部に運ばれるカドミウムはごく少なくなる。
汚染土壌で栽培したコシヒカリと低カドミウムコシヒカリの玄米カドミウム濃度(左)と、カドミウム吸収抑制のしくみ(右)

作物・農耕地土壌における放射性同位体のモニタリング

⇒ 作物・農耕地の放射性物質汚染に対する安全性の確認に貢献

農業環境技術研究所では1959年から、米・麦およびその栽培土壌の人工放射性物質の濃度を、国内各地で測定し、公開してきました。東京電力福島第一原子力発電所事故の際には、そのデータが、農地から玄米への移行係数の決定に活用されました。

セシウム137濃度全国平均値の推移(グラフ):玄米、白米および土壌のセシウム137の濃度は、1960年代以降2010年まで減少し続けてきたが、2011年には原発事故の影響で1970年ころの値に戻った、調査地点(地図); 約20か所の国・都道府県の試験研究機関のほ場からの試料を調査した。
作物(白米、玄米)と土壌のセシウム137濃度の推移(左)と調査地点(右)

農地土壌の放射性セシウム濃度分布図の作成

⇒ 農地の除染や営農に向けた取り組みに貢献

東京電力福島第一原子力発電所の事故による農地土壌の汚染程度を知るため、福島県など15都県で調査を行い、3420地点で測定した放射性セシウム濃度と空間線量率から、調査地点以外の農地土壌の放射性セシウム濃度を推定しました。作成した濃度分布図は 「農地土壌の放射性物質濃度分布図の作成について」(農林水産省のページ) でダウンロードできます。

(1)岩手県から静岡県まで15都県3420地点の農地土壌の放射性セシウム濃度を測定しました(写真)。(2)文科省が測定した「空間線量図」(マップ)と、(3)農環研が作成していた「デジタル土壌図」(マップ)をもとに、「農地土壌の放射性セシウム濃度推定図」(マップ)を作成しました
土壌の放射性セシウム濃度測定/空間線量率図/デジタル土壌図 (左) をもとに、
放射性セシウム濃度推定マップ (右) を作成

農業と生物多様性

茶生産に利用される半自然草地(茶草場)が多様な植物を育んでいることを解明

⇒ 世界農業遺産の認定に貢献

茶草農法によって維持されている半自然草地(茶草場)には絶滅危惧(きぐ)種など貴重な植物が多く生育することを明らかにしました。良質な茶の生産と生物多様性を両立させる農業景観が世界農業遺産の認定時に高く評価されました。


茶草(ススキなど)が敷きこまれた茶園の畝間 (左)、茶園と茶草場の風景 (中)、茶草場に生育するキキョウ(絶滅危惧種) (右)

農業環境資源の研究と理解増進活動

農業と関連する昆虫標本の活用

⇒ 農と自然への理解を増進

農業環境技術研究所の昆虫標本館は、国内では最大規模の農業に関連する昆虫標本(約130万点)を所蔵しています。多数の鑑定依頼に対応し、判明した昆虫を新害虫として報告しているほか、次世代を担う子どもたちに昆虫や自然環境・農業への理解を深めてもらうため、昆虫採集や標本作製を指導しています。

昆虫標本館の収蔵標本(写真)、平成23年度文部科学大臣表彰(理解増進部門)受賞者(4名)の記念写真(写真)
昆虫標本館の所蔵標本(左)と平成23年度文部科学大臣表彰(理解増進部門)の受賞者(右)

ミニ農村の造成と生物多様性の調査

⇒ 農村の生物多様性の理解に貢献

田畑、ため池、林地などからなる実物大の農村環境モデルを造成しました。人間の働きかけによって維持されてきた自然の重要性を明らかにし、農村における生物の保全をめざす取組みに活用されています。

ミニ農村(谷津田の部分)の風景(写真)、平成21年度文部科学大臣表彰(理解増進部門)受賞者(5名)の記念写真(写真)
ミニ農村の風景(左)と平成21年度 文部科学大臣表彰(理解増進部門)の受賞者(右)

「土壌モノリス」作成法の開発と普及

⇒ 「土」への理解増進に貢献

足元にある土壌の断面標本(土壌モノリス)の作成法を開発し、長年にわたって展示や指導によってその普及に努めています。作物生産や環境保全と土壌との関係について国内の研究・理解を推進するとともに、海外の農業試験場や大学の専門家に作成法を指導するなど国際貢献にも寄与しています。

土壌モノリス展示のようす(写真)、平成20年度文部科学大臣表彰(理解増進部門)の受賞者(5名)の記念写真(写真)
土壌モノリス展示(左)と平成20年度 文部科学大臣表彰(理解増進部門)の受賞者(右)