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情報:農業と環境 No.95 (2008.3)
独立行政法人農業環境技術研究所

第25回土・水研究会 「土・水の研究と私たちの健康な生活」 (2月20日 つくば) が開催された

2月20日、つくば農林ホール (農林水産会議事務局筑波事務所) において、第25回 土・水研究会 「土・水の研究と私たちの健康な生活」 が開かれました。

開催趣旨

人の生活環境にかかわる要素は数多くあるが、「空気」、「水」、「土壌」はその三要素とも言うべき重要な物質である。そして私たちの健康な生活を守るためには、これらの物質を健全な状態に保全することが必要となる。

この「土・水研究会」は今回で25回目となり、四半世紀にわたって土壌と水の研究課題について多くの発表や討論が行われ、蓄積された業績も多い。しかし、この土・水研究の成果が、どのように私たちの生活と結びついているのかということになると、見えにくい部分も少なくないと思われる。

一方で、昨今のニュースなどで話題になっているように、私たちの住む生活環境はその悪化が懸念され、環境研究の重要性が指摘されている。

本研究会では、土壌や水の研究に関する今後の研究の方向性について新しい観点から検討するとともに、これまでに得られた成果を私たちの生活と密接に関連づけて平易に解説する。

その内容は、環境保全、食料生産、健康(農医連携)、食農教育など広い範囲にわたる情報交換を目指すものとする。

参加者

参加者数は148名でした。内訳は、政府機関から2名、都道府県から62名、大学から7名、民間企業・団体から21名、一般市民6名、他の独立行政法人から19名、農業環境技術研究所から36名。

講演

1. 農・環境・医の連携をめざした科学を

陽  捷行 (北里大学)

2. 土壌の環境教育の普及と地域・学校・家庭との連携

田村 憲司 (筑波大学)

3. 園芸療法 〜育てる・つくる・食べるを通して〜

登坂 ユカ (いばらき園芸療法研究会)

4. 土からの教育をめざして 〜福島県喜多方市の農業教育特区とは〜

渡部  裕 (喜多方市教育委員会)

5. 農村地域における植物を利用した水質浄化技術

阿部  薫 (農業環境技術研究所)

6. 土壌と作物中の微量元素の関係から作物の産地を判別する

川崎  晃 (農業環境技術研究所)

講演の概要

陽 捷行氏 (北里大学) の講演では、20世紀の科学技術の検証と反省に基づいて 「農・環境・医の連携」 をめざした21世紀の新しい科学の潮流が紹介された。さらに北里大学が新しい試みとして実施している 「北里大学農医連携シンポジウム」、「北里大学農医連携学術叢書」 や Web情報 「情報:農と環境と医療」(http://noui.kitasato-u.ac.jp/spread/newsletter/) (ページのURLが変更されています。2014年12月) の概要が紹介された。幅広い角度から科学技術のあり方を見つめ直す内容で、インパクトのある講演であった。

田村憲司氏 (筑波大学) の講演は、環境教育としての 「土壌教育」 の重要性を訴えた内容で、その理念、および、すでに実施されてきた土壌の観察会のようすが写真などで詳しく紹介された。かけがえのない自然資源としての土壌について、地域・学校・家庭が連携しながら理解を深めていく必要性が強調され、示唆に富んだ内容であった。また、土壌観察のためのやさしいガイドブックが配布され、今後の活用が期待される。

登坂ユカ氏 (いばらき園芸療法研究会) の講演では、園芸という本来は農業分野の活動を、医療という別の分野で活用しようという新しい試みが紹介された。園芸療法の歴史、定義、海外と国内の活動の流れが述べられ、また実践としての多くのケーススタディが写真などによって紹介された。「自分が楽しいと思うことができる環境」 をめざす園芸療法の今後には、社会からの期待がますます大きくなるであろう。

渡部 裕氏 (喜多方市教育委員会) の講演では、「喜多方市小学校農業科」 についての基本的な考え方、実施の意義、目標と方針などが述べられ、具体的な指導内容について写真などで紹介された。「なすことによって学ぶ」 という、現在の教育が見落としがちなテーマに挑戦し、土や作物にふれながら農業体験をする教育はその成果への期待がきわめて大きい。なお、この農業化の教育の推進には、教員および児童への指導援助等を行う農業科支援員 (農業者、市民、農業高校生等) の援助が不可欠であり、そのような指導者と児童の交流もまた大きな教育の目的となっている。

阿部 薫氏 (農業環境技術研究所) の講演では、農村地域の水質保全について生活廃水、畜産排水や園芸排水の浄化について、バイオジオフィルターや現在実施中の研究について紹介された。これらは植物を利用した環境にやさしい浄化技術であり、国内外から注目され、今後の普及が期待されている。

川崎 晃氏 (農業環境技術研究所) の講演では、土壌中の微量元素や微量放射性物質の存在比の分析から農産物の産地を判別する技術が紹介された。産地偽装については昨今のニュースを賑(にぎ)わせている問題であり、産地を判別する技術は世間からも注目されている。米についてはほぼ技術が確立されているが、野菜その他の農産物については、さらなる研究の進展が期待されているところである。

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