11月5日午後、秋葉原コンベンションホール(東京) において、農業環境技術研究所公開セミナー 「生き物でにぎわう豊かな自然と農業」(NIAES 30周年記念)が開催されました。
農業は本来、生物多様性によってもたらされる生態系サービスを最大限に生かすことで成り立ち、生物多様性との調和の中で営まれています。一方、長年にわたる農業活動によって、赤とんぼやメダカなど、私たちにも馴染(なじ)みのある多くの生き物たちが生息する農業生態系が育(はぐく)まれてきました。
この公開セミナーは、生物多様性の保全における農業の役割の重要性をわかりやすく解説することで、農業によって維持されている生物多様性について一般の方々にも広く知っていただくことと目的として開催しました。
開催日時: 2013年11月5日(火曜日) 13:00 − 17:30
開催場所: 秋葉原コンベンションホール (東京)
主催: 独立行政法人 農業環境技術研究所
参加者: 111名
内訳: 一般市民16名、農業・NPO法人5名、企業・法人24名、大学9名、研究機関24名(うち農環研18名)、地方自治体21名、農水省ほか12名
講演のようす
総合討論のようす
(独)農業環境技術研究所 宮下理事長、農林水産技術会議事務局 雨宮局長の開会あいさつの後、名古屋大学の夏原由博氏から 「農業・農村と生物多様性の Win-Win の関係」 と題するご講演をいただきました。夏原氏は、農業と生物多様性を取り巻く基本的な構造として、農業は周辺環境から生態系サービスを享受(きょうじゅ)すると同時に、生物多様性を高める役割も果たしていること、また洪水防止機能や土砂崩壊防止機能などの多様なサービスを私たちに提供していることを示されました。さらに生物多様性の保全を持続的に行うためには、地域における生物多様性をめぐる人間関係やネットワークの醸成(じょうせい)が重要であることを具体例をまじえて紹介いただきました。
馬場友希研究員は、環境保全型農業の効果を計る指標生物とそれを用いた生物多様性評価の方法、片山直樹研究員は、景観の構造や農地の集約化が鳥類の多様性に及ぼす影響についてそれぞれ紹介しました。また実際の農業生産と生物多様性が両立している具体的事例として、楠本良延主任研究員から、茶産地に残されている敷草供給源 「茶草場」 の生物多様性について、(独)農研機構近畿中国四国農業研究センターの高橋佳孝氏からは、阿蘇の草原とそこから生み出されるさまざまな生態系サービスの活用例が紹介されました。
最後に環境カウンセラーの岡本明子氏から、一般の方々が生物多様性をどのように感じ、考えているかについて、ご自身の経験を踏まえたお話があり、今後、生物多様性に対する理解を広めるうえで参考となる貴重な情報をいただきました。
総合討論では、農業の中で生物多様性を維持する意義についての質問や、生物多様性を保全した場合の収量や病害虫の問題、直接支払い制度との関係など、生物多様性の本質的な問題から生産現場に直結した問題まで、さまざまな観点の質問や意見が出され、この問題に対する関心の高さと取り組むべき問題の難しさを痛感しました。今後これらの問題点を整理し、新たな研究の展開に生かしていきたいと考えています。
プログラム:
開会あいさつ
(独)農業環境技術研究所 宮下清貴
農林水産技術会議事務局長 雨宮宏司
1.農業・農村と生物多様性のWin-Winの関係 [使用スライド(PDF)]
名古屋大学教授 夏原由博
2.農業環境技術研究所における生物多様性研究の歩み [使用スライド(PDF)]
(独)農業環境技術研究所 安田耕司
3.環境保全型農業の効果を計る指標生物 [使用スライド(PDF)]
(独)農業環境技術研究所 田中幸一・馬場友希
4.景観構造と集約的農業が鳥類の豊かさを左右する [使用スライド(PDF)]
(独)農業環境技術研究所 片山直樹
5.茶草場を介した生物多様性保全と茶生産の両立 [使用スライド(PDF)]
(独)農業環境技術研究所 楠本良延
6.阿蘇の草原と生態系サービス [使用スライド(PDF)]
(独)農研機構 近畿中国四国農業研究センター 高橋佳孝
7.私たちにとっての生物多様性 [使用スライド(PDF)]
環境カウンセラー 岡本明子
総合討論